極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 千秋くんは、私に何も聞かなかった。
 ただ黙って、涙を流す私のそばにいてくれた。

 はたから見たら、まるで千秋くんが私を泣かせたみたいな光景。それが申し訳なくなった、何とか泣き止んだ。彼に借りたハンカチには、アイシャドウのラメが移っている。

「ごめんね」

 掠れた声で謝った。
 千秋くんは、首を緩く横に振った。

「歩けますか?」

 あの頃とは違う、丁寧でぎこちない口調で尋ねられた。
 答え方を迷って、

「……うん」

 私はあの頃と同じ口調で答えた。

 眼差しを優しくした千秋くんが、私に手を差し出す。
 まるで、王子様がエスコートしてくれるみたいに。

 大きくて骨っぽい手のひらに、おそるおそる指先を重ねた。
 何もかもを失った私が、お姫様になんてなれるわけがないとわかっていたのに。
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