極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
 15分のおやつの時間が終わって、片付けをする。紙のトレイや紙スプーンを回収して調理場へ戻ったところで、満面の笑みを浮かべた渡辺さんが言う。

「やっぱり、上白糖をハチミツに変えたのが良かったのねー。紗夜香ちゃんのアイデアのおかげよ!」

「いえ、そんな……」

 恐縮すると、「謙遜しないの!」と軽く肩を叩かれる。

「ハチミツのほうが、上白糖より風味が強いもんね。確かに、にんじんの青臭さが消える。すりおろしてレモン汁をかければ十分だと思ってたけど……私もまだまだだわ……」

 食洗器から取り出した調理器具を拭きながら、渡辺さんは続けた。

「型抜きクッキーにして自分から手に取ってもらうってとこも大事なのよね。いやーほんとに、参った参った」

 手放しで褒められることに慣れていなくて、私は恐縮したまま、気の利いた返しもできない。
 それでも、渡辺さんが気を悪くした様子がないからほっとした。

「ありがとうございます」

 褒めてもらったことに対してどうにかお礼を言って、調理器具の片付けに取り掛かる。

 片付けが終わると、いつも通り、夕食の支度を始める渡辺さんを残して退勤になる。エプロンを外して、

「お疲れさまでした」

 渡辺さんに声を掛けると、「あっ、ちょっと待って」と呼び止められた。

 渡辺さんは濡れた手をタオルで拭くと、調理場の隣にある更衣室に入った。そのまますぐに戻ってくると、私に二枚のチケットを差し出した。

 都内の水族館で開催される、ナイトアクアリウムのチケットだった。

「コレ、お礼って言うほど大したものじゃないんだけど、よかったらもらって」

「えっ……いいんですか」

 券面に記載されている、大人1名6000円の文字に慄く。

 渡辺さんは、もちろん、と笑った。

「ダンナの会社の取引先からお付き合いで買ったんだけど、私たちはあんまり興味がないから。紗夜香ちゃんに押し付けるみたいになって、却って悪いんだけど」

「いえっ、押し付けるなんて……ええと、それじゃあ、ありがたく頂戴します」

 ぺこりと頭を下げて、チケットを受け取る。そうして、渡辺さんに改めて挨拶をして退勤した。
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