極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
私が夕食の支度をする間に、千秋くんにはシャワーを浴びてもらった。パジャマ姿でリビングに戻ってきた千秋くんは、先程よりも頬に血色が戻っていたからほっとする。
今日のメニューは、クリームリゾットと温野菜。身体が冷えないメニューを心がけた。
食事が終わって、片付けも終わったあと。ソファでタブレットを扱っていた千秋くんが顔を上げた。
「前に言っていた南アメリカのプロジェクトが、山場を越えたんです」
「そうなんだ……よかった!」
千秋くんの隣に腰掛けながら、そう答える。
千秋くんはタブレットをローテーブルに置くと、私の方を見た。
「引き続き佳境ではあるので、あと1ヶ月くらいはそれなりに忙しいんですけど、心配をかけることはなくなると思います」
今日まで、いろいろとすみませんでした。――千秋くんが神妙な顔で頭を下げる。
「謝ることじゃないよ。でも、今後は無理をしないでね」
なるべく明るい声で返した。だけど、千秋くんは神妙な顔のまま、逡巡するように視線を揺らめかせる。
カチ、と壁の掛け時計の秒針の響き。束の間の無言ののち、千秋くんが口をひらいた。
「俺は久遠グループ総帥の……久遠清典の養子なんです」
私は千秋くんを見つめたまま、言葉を探しかねて沈黙した。千秋くんにとって、とても重要な事情を打ち明けられているのだと思ったから。
「本当は、久遠清典は祖父で……俺の父が、彼の嫡子だった。だけど父は、久遠家の乳母の立場だった女性の孫娘を愛して――母を愛して、駆け落ちしました。それで、俺が生まれました」
膝の上で握られた千秋くんの指先が、小さくふるえている。
「父は、卑しい女に騙された愚かな男。母は、財閥の御曹司に色目を使った卑しい女。久遠家も、久遠家に近しい家系も、皆がそう思っている。だから、俺は完璧じゃないといけなくて」
――俺が完璧じゃないと、両親が間違っていたことになるので。
いつか、千秋くんはそう言った。その言葉が、今ようやく腑に落ちた。