極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

*4章* 交際0日の波紋

 眦に浮かんだ涙に、夕やけのオレンジが反射した。
 幼かったあの日々の記憶として、きらめくオレンジは、その様相を変えて頻出する。

 揶揄された理由は様々だった。服が背丈に合っていないこと。ズボンの擦り切れた部分にアップリケが施されていること。最新のゲーム機を持っていないこと。短い鉛筆を使っていること。

 俺たちの貧困と母の美しさを不当に結び付けて、大人たちは子供に、下劣な噂話を吹き込んだ。俺の身なりや持ち物の異質は、母の怠慢として攻撃の的にされた。でも、母は毎日清潔な衣服を用意してくれたし、毎朝俺の髪を梳いてくれた。身なりや持ち物がくたびれていても、それらの手入れは丹念に行われていた。

 それでも――それをわかっていても、あの頃の俺は幼くて、揶揄されればいつも泣いていた。そんな俺に唯一味方してくれたのが、近所に住む宮野紗夜香さんだった。

 ――大丈夫。恥ずかしいことをしてるのは、私たちじゃなくてあのひとたちだよ。

 そう言って、俺と一緒に皆からの嘲笑の対象になっても、絶対に俺の手を離したりはしなかった。
 紗夜香さんに握られていた自分の手が、小刻みにふるえていたのを覚えている。

 紗夜香さんは、俺と俺の母を守ってくれた。
 だから今度は、俺が紗夜香さんを守りたいと思った。
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