極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 千秋くんが私たちに歩み寄る。

「美緒。紗夜香さんのこと、ちゃんと紹介するね」

 ――呼び捨て……?

 二条さんに微笑む千秋くんを瞳に映した途端、ぎゅっと胸が縮こまる。低い心音が、胸の内で連なる。
 視線を揺らめかす私の前で、二条さんと千秋くんが親しげに話す。

「紹介されなくても、よく知ってるわ。一途に思い続けた初恋の女性(ひと)でしょ」

 ――ね? と、私に向かって小首を傾げる仕草も、まるで映画のワンシーンみたい。

 私は、曖昧な愛想笑いを返すことしかできなかった。

 二条さんは私に対して好意的に接してくれているのに、何で。どうして。

「千秋とは、ロンドン留学中に知り合ったの。向こうでも、あなたのことはよく聞かされていたわ」

「そう、ですか」

「針の飛んだレコードみたいにね。そうそう、私たちが下宿していた寮にはレコードがあって、ずっと昔の愛の歌がよく流れていたの」

 ふふっ、と思い出を懐かしむように笑って、二条さんは続ける。

「でも、どんな愛の歌よりも、私はあなたの名前を聞き飽きた」

 ――赤いドレスによく似合う、シャンパンゴールドのアイシャドウ。色香をはらむ眼差しで一瞥されて、私ははっきりと怯んでしまった。

「美緒、話しすぎ」

 千秋くんが、少し決まり悪そうに二条さんを制した。思い出話をしただけよ、と彼女は千秋くんを軽やかにかわす。

 私の心には、言いようのない不安が込み上げる。二条さんは、千秋くんがずっと私を思ってくれていたのだと教えてくれただけだ。声音も最後まで友好的で――それなのに、どうしてこんなに不安なんだろう。

 千秋くんと二条さんが親しげに話す姿を、これ以上見たくないと思った。
 だから、二人にちゃんと挨拶をして、この場を後にしようと思った。

 だって、カフスボタンを届けるという私の役目は終わったのだ。

「あの……千秋くん、二条さん。私、」

 そろそろ帰りますねと言いかけたところで、――ぎぃ、とやけに重々しい軋みとともに、部屋の扉がひらいた。
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