極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
満月の世界に散らばった3センチヒールの靴音。夜に置き去りにした私の息遣い。ほんの一秒でもほんの一瞬でも、少しでも早く、美しい場所から逃げたかった。
お金なんて満足に持ってないくせに、ホテルの車寄せに止まっていたタクシーに滑り込んだ。
どちらまで、と運転手さんに聞かれた。答えられる場所がないことに困窮した。だけど――はっと呼吸を取り戻したように息を呑んで、たった2ヶ月半暮らしたマンションの住所を告げた。まるで、自分の家みたいにすらすらと言えた。
それを自覚した途端に涙がこぼれて、私は俯いて顔を覆った。運転手さんは、私に気兼ねする優しい気配をさせながら、車を出発させた。
都心の夜景が、窓の外を流れてゆく。夜に明滅する光はちゃんと人工的で、だから、ほんの少しだけ安堵した。