極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
きっと彼女はいないと思いながら、それでも望みをかけた。
ひどくもどかしい気持ちで鍵をあけて、室内に明かりがないことに絶望する。手探りで廊下の明かりをつけて、紗夜香さんの部屋まで走った。淡い光に浸った室内には、まるで愛の残骸のように、婚姻届の紙片が落ちていた。
彼女の意思を推測して、まるで幼い学生のように舞い上がった。そのくせ、触れ合うだけのキスの意味を問うことすら恐れた。
――まだ……私は千秋くんを好きじゃない。
プロポーズをした直後にそう言われた。俺が始めた結婚生活は偽物で、ふたりで過ごした2ヶ月半に、確かな保証なんて何もないと知っていたから。
ほんの束の間舞い上がったけれど、紗夜香さんが俺を好きになるわけがなかった。
ここに散らばる紙片が、紗夜香さんを傷つけた俺の結末。
守ることができなかった。
濁りきった泡沫――彼女を貶める揶揄から、守ることができなかった。
守りたいとか、幸せにしたいとか、ただ唱えるだけで何も成せない。
何も成せないなら、意思など端から存在しなかったのと同じだ。
夕やけのオレンジがきらめいた日々。あの日々はもう遥か遠くまで過ぎ去っていることに、俺は今日まで気づいていなかった。