極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 だけど――、

「紗夜香さん」

 彼が私を抱きしめて、私を引き留めようとする。

 強引めいた力加減――でも、私が振りほどこうとすれば、彼はきっと私を手離す。
 それをわかっていたから、振りほどこうとした。

 それなのに、上質なラストノートが私の動きを絡めとる。

 あ、とこぼした困窮の息遣いが掠れる。眦から、抗えずに涙が落ちる。

「……俺の名前が、にじんでいたから」

 呼吸をわずかにふるわせながら、千秋くんが続ける。

「婚姻届を破るとき……紗夜香さんは泣いたんだって、都合の良いように解釈して……また、」

 ぎゅ、と私を抱きしめる腕に力がこもる。

「また……あなたを追いかけてしまいました」

 首筋に落ちる声音が揺らいでいる。きっと今、千秋くんは苦しげに眉根を寄せている。

 夢みたいな結婚生活が始まった頃、千秋くんは一切表情を変えずに言い切った。――置いていかれたなら、また追いかけるだけです。

 同じ意味合いを持つ言葉に、今夜は後悔がにじんでいる。

「紗夜香さんは、俺たちを揶揄する相手から守ってくれたのに」

 千秋くんが打ち明ける後悔。

「あなたを貶める揶揄から、あなたを守れなくてすみません」

 きみが生きる、圧倒的な満月の世界。私たちが立つ美しい今夜に、オレンジと三日月の世界が繋がる。
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