極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 一歩、おそるおそる前へ踏み出した。
 涙がもうひとつ、眦から落ちた。

 心に込み上げる思いから、もう逃げることはできない。

「好きだよ。だから、ひとりで頑張ろうとしないで」

 必死の声で訴えた。

 懸命に縋りたい気持ちで、懸命に守りたい気持ちで。

 涙で潤む視界の中で、千秋くんが目を眇める。まるで涙を堪えるようなその表情で、千秋くんが言った。

「……やっと届いた」

 言葉の終わりに連なる切実な息遣い。その残余が消えないうちに、強く抱きしめられた。切羽詰まった力加減で、思わず目を見ひらいた。

 だけどすぐに、私を大切に気遣う力加減まで、腕が緩められる。

 千秋くんの温度がどうしようもなく温かくて、奇跡みたいに幸せだと思った。ふたりぶんの心音が夜の静けさと綯い交ぜになり、私たちは束の間世界と溶け合った。

「好きです。ずっと紗夜香さんのことを……今も、この先も、あなただけを愛しています」

 満月の夜に、愛が満ちる。
 私が懐かしんだ三日月も、愛が満ちた夜が巡れば、今日の夜の続きにある。 
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