極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 オートロックの扉がひらいた。

 王子様みたいな彼のエスコートで、室内に足を踏み入れた。
 洗練された調度品と、レースカーテンの向こうの夜景。
 バスルームの窓からも、きらびやかな景色を見下ろせた。

 着古したセーターにくたびれたジャンパー、黒いチノパンとスニーカー。29歳のみじめな私は、シャワーの飛沫と、真っ白な泡に押し流された。

 ふわふわのガウンを肩から羽織った。その瞬間に、ラグジュアリーなスイートルームは私の背景となった。

 差し出された手のひらに指先を重ねる。
 ふわふわのガウンごと腰を引き寄せられて、私は彼の腕の中へ連れていかれる。

 彼の指先が頬のなだらかさを伝い、やがて顎先へと辿り着く。わずかな力で上を向かされて、彼の瞳を見つめれば、私の視界は彼の影に染まった。

 吐息が綯い交ぜになる距離で、紗夜香さん、と彼が私の名前を呼んだ。
 それに答えないまま、私は目を瞑った。

 波打つみたいなシーツに呑まれた。

 目を瞑った先で、夢を見たかった。
 目を覚ましたら、消えてしまう泡沫だとしても。
 真っ暗な失意に目を瞑って、今夜だけの甘やかな夢を見たかった。
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