野いちご源氏物語 四八 早蕨(さわらび)
ずいぶん暗くなってから二条(にじょう)(いん)にご到着なさった。
見たこともないようなまぶしいお屋敷で、匂宮(におうのみや)様が待ちかねていらっしゃる。
ご自身で中君(なかのきみ)を乗り物から()ろしておあげになる。

お屋敷のなかは最高に美しく飾りつけられていて、女房(にょうぼう)たちの部屋まで()っている。
宮様が宇治(うじ)へお通いになっていることは(うわさ)になっていたけれど、どれほど本気でいらっしゃるか世間は半信(はんしん)半疑(はんぎ)だった。
それがいきなり二条の院へお迎えになったから、
<よほど大切にしていらっしゃるのだ>
と世間も驚いている。

(かおる)(きみ)三条(さんじょう)(てい)はまもなく完成する。
お引越し前の最終的なご指示をなさるために、近ごろは毎日お越しになっているわ。
今日は夜になっても三条邸にお(とど)まりになって、中君のお(とも)をした家来からのご報告を待っていらっしゃる。

宮様はとても大切に中君をお迎えになったと家来からお聞きになると、うれしく思われる一方で、(くや)しい気もなさる。
<私の妻にすることもできた人だったのに。自分のせいとはいえ、あまりに馬鹿馬鹿(ばかばか)しいではないか。一晩一緒に過ごしながら手を出さず、他の男に(ゆず)ってしまったなんて>
と、納得しがたくお思いになる。
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