野いちご源氏物語 四八 早蕨(さわらび)
(べん)(あま)(かおる)(きみ)のおっしゃったことを中君(なかのきみ)にお伝えした。
大君(おおいぎみ)だけでなく中君とまでお別れするのだから、ますます悲しそうにしている。
「他の女房(にょうぼう)たちは都へ(のぼ)ることがうれしくて熱心に支度(したく)をしておりますが、私は(さみ)しく涙を流しております」
似合いもしない派手な着物を急いで()っている(ろう)女房(にょうぼう)たちのなかで、弁の尼だけはすっかり尼らしい地味な格好をしている。

「私もそなたと同じ気持ちですよ。都に上ったところで、(みや)様との結婚生活はあまりうまくいかないような気がするのです。そのときにはこの山荘(さんそう)へ戻ってきますから、また会えるはず。とはいえ、ここに寂しく残るそなたが気がかりだから、ときどきは都へ会いにきておくれ。出家(しゅっけ)したからといって、人付き合いを完全にやめなければならないわけではないでしょう」
亡き大君がお使いになっていた家具で、尼が使ってもおかしくないものは、すべて弁の尼におやりになった。

「どの女房よりも深く姉君(あねぎみ)の死を悲しんでくれるのだから、姉君とは前世(ぜんせ)から特別な(えん)があったのでしょう。そなたにとってもつらいことになってしまいましたね」
中君の優しいお言葉に弁の尼はますます心が乱れて、母親を亡くした子どものように泣きまどう。
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