月のうさぎと地上の雨男
 その結果は、数ヶ月後に知らされた。


「身の回りをきれいにしてきたわけよ」


 (とおる)がそう言って帰国してきた。

 ゴールデンウィーク直後から、再び日本を離れていた透だが、受けていたプロポーズを丁重に断り、代わりの人材の手配や仕事の引き継ぎをこの二か月ほどで行っていたらしい。


「言い方がアレだけど、え、本気?」

「当たり前だろ。俺が何年片思いしてきたと思ってんだよ」

「いや、知らないけどさ……」


 透は『骨は拾ってくれよ』と言い残し、渡の夏休みが始まるころに本家へと出向いた。

 その結果、園佳(そのか)美佳(みか)は透を受け入れたらしい。

 ストレートに二人に頭を下げて、


「園佳さん。俺と結婚を前提にお付き合いをしていただけないでしょうか」

「美佳伯母さん。お嬢さんをください」


 と言ってきたらしい。

 園佳はさらっと


「いいわよ。よろしくね」


 と二つ返事で、美佳の方も


(ゆずる)と同じくらい働くならな」


 とさらっと受け入れてくれたそうだ。

 渡からすれば、海外で力仕事の多かった兄が父の仕事を継ぐのは大変だろうと思ったが、兄が幸せそうなので黙っておいた。


「今まで、親父の補佐は渡がやってくれてただろ? だから、夏の間に引き継ぎしろってさ」

「ああ、そういうこと」


 合点がいった。

 渡は透に引き継ぎをしながら、本家と分家の仕事の全体像を把握しろということだろう。透も事務仕事に慣れながら、雨水家が国内で担う役割の理解が求められていた。

 筆頭分家としての仕事は(しずく)か佳貴が継ぐ予定らしいが、どちらになるかはまだわからないそうだ。


「私としては佳貴に奮起してほしいが……どうだろうなあ」


 後日、渡が美佳に会ったときに、そう言われた。

 佳貴はまだ落ち込んではいるが、夏休み開始と同時に譲と共に美佳を手伝い、多少は反省の色が見えてきたそうだ。

 しかし、貴生(たかお)はすっかり引きこもっていて、美佳とも話ができていないらしい。

 それについては美佳も誰も何も言わないので、渡の知るところではなかった。


「透、ここの数字が違う」

「あ、悪い」

「ここはね」


 園佳は、渡の想像の何倍も丁寧に透と接していた。

 佳貴にもそうすべきだったと渡は思うけど、もちろん言えなかった。

 兄が幸せそうな顔をしていたから、なおさら水を差したくなかった。
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