月のうさぎと地上の雨男
 期末試験の後、月詠家別邸のシアタールームで二人は言葉少なに並んで座っていた。


「夏休みの間は、月に戻ってパパの手伝いをしてこようと思うの」


 俯いて言う凪に、渡は頷いた。


「うん、頑張って。俺も父さんの手伝いや兄さんへの引き継ぎがあるから、夏休みの間は忙しいんだ」


 凪がほっとした顔で渡を見上げた。

 渡は穏やかに凪を見つめ返した。


「一緒に頑張ろう、凪。俺は君を補佐できるようになる。君が月の頂に立ったとき、一番近くで君と並ぶのは俺だ」

「楽しみにしてる。私、頑張ってくるよ。パパ……お父様に追いつけるように、お父様がどんな仕事をしてるのか、まず知らないと」


 凪は嬉しそうに笑って、渡の腕にもたれかかった。

 そっと抱き寄せて、渡は周囲を伺う。(あや)(ゆう)は不在だし、美凪子(みなこ)婦人には本館で挨拶を済ませてきた。猿渡(さるわたり)蟹沢(かにさわ)がどこかで監視しているだろうが、これくらいはいいだろう。

 渡は屈み、触れるだけのキスをした。凪が溶けそうな顔で微笑む。


「渡くん、次に会えるのはいつかな」

「凪はいつ月に行くの?」

「終業式のあと、すぐ。戻るのは夏休みの終わりギリギリになると思う」

「じゃあ、もし空いてたら夏休み最後の日にデートしよう。行きたいところ、考えておいて」

「うん!」


 渡と凪は午後いっぱいシアタールームで過ごし、そして別れた。

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