月のうさぎと地上の雨男
「ふうん」


 渡から話を聞いた透はどうでも良さそうに頷いた。


「大変だなあ、上方婚」

「そうかも。ま、なるようになるよ」

「そりゃそうだ。俺も上方婚になんのかな」

「ある意味そうかも?」


 透は「園佳さんが俺の妻かー」とニヤニヤしながら呟いて、手元を見ていた。

 渡も「妻です」と凪を紹介するシチュエーションを想像する。

 それはなかなか悪くなくて、渡の顔が緩みそうになった。


 凪は今頃、月で月詠の頭領と共に挨拶回りで忙しいはずだ。

 各国の大使に、できる限り相手の国の言葉で挨拶ができるよう、英語以外の外国語を勉強していると凪から聞かされていた。

 その国の言葉、月と地球のそれぞれの環境、大使の家族構成や趣味、覚えることは山ほどあって、それは渡も把握しなくてはいけなかった。


「あーあ。毎日毎日、兄さんとデート」

「気持ちの悪いことを言うなよ。俺だって弟なんかじゃなくて、愛しの園佳さんとデートしたいんだ」

「しかも本家の書斎」

「つーか、佳貴(よしたか)がやれよ」

「それはそう」

「あいつは、美佳伯母さんと園佳さんと外交の補佐……」


 透が項垂れた。

 透も気持ちはわかるが、仕方がない。それも佳貴に対する罰の一つなのだ。

 雨水本家の人間として、頭領がどのような仕事をしているのかを理解する。言ってしまえば凪と同じようなことをしているので、渡からとやかく言えることはなかったし、透も渡以外には不満はもらしていなかった。


「というか、普通なら親父じゃなくて貴生(たかお)さんが付いて行くもんだよな」

「普通ならね」

「そこで着いて行かないからダメなんだろ」

「言うなよ、兄さん。みんな分かってるから」


 腰が引けて美佳の隣に立ってこなかったために、よくない噂が立ち、いざという時にも美佳に頼られず、その立場を譲に取って代わられたのだ。

 それを貴生以外は理解しており、佳貴も思うところがあるのか、貴生と距離を置くようになった。


「渡、土地の管理って全部母さん?」

「そうだよ。本家の土地とうち……筆頭分家の土地は全部母さんが管理してる。あと、母さんの実家から継いでる分も」

「母さんも母さんでなんなんだろうな」

「さあ……」


 基本的に歌帆(かほ)は家にいた。

 渡と透の家には、家族全員分の個室があった。

 譲と歌帆はそれぞれの個室と、二人の寝室との三部屋を使っている。

 渡は用事があるときにしか行かないが、歌帆の部屋にはパソコンと複数台のモニターが並び、何をしているのかさっぱりわからなかった。

 歌帆は家でパソコンと向かい合い、ずっと何かをしているが、それが何なのか、渡も透もいまだによくわかっていない。


「母さんは、母さん自身と父さんの個人分の財産管理もしてるし、筆頭分家として家で持ってる財産の管理もやってる。……園佳さんが大学を出るまでは、たぶん本家の財産管理も全部じゃないけどやってたっぽい」

「もしかして、すげー仕事できる人?」

「そうかも」


 渡と透はその調子で、延々と二人で顔を突き合わせて手を動かした。

 二人で雨水(うすい)家のことを見直して、考え直して、そこでやっと父母のことが見えてくる。

 そこからまた自分たちのことを考えて……。

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