月のうさぎと地上の雨男
 やがて車は、予定していた屋内遊園地の地下駐車場に停まった。

 渡が凪の手を引いて車から降りると、猿渡とやはりラフな服装の蟹沢(かにさわ)がさりげなく前後を挟む。

 猿渡と蟹沢は二人で並ぶと、ちょうど凪の両親のように見える服装で揃えていた。


「私どものことは、どうかいないものとしてお楽しみ下さい」


 蟹沢に微笑まれて、渡は頷く。


「はい、ありがとうございます」


 渡の手がわずかに引かれた。

 見ると、凪がニコニコしながら渡を見上げている。


「行こうか、凪」

「うん!」


 並んで入ってチケットを買う。

 凪は遊園地に来たことがなく、渡も高校の遠足くらいしか経験がないので、とりあえず片っ端から乗ることにした。


「屋内なのにコースターがあるんだね」

「そうだね。どれくらいの距離を走るのか全然わからないな」


 二人は首を傾げつつ、安全バーを下ろした。

 すぐ後ろの席に猿渡と蟹沢が並んで座っていた。


「渡くん、手つないで」

「いいよ」


 手が重なった瞬間、走り出した。

「う、わ、早いな!?」

「ひゃわ……きゃーー!」


 渡の想像よりもずっと早く、コースターが走り出した。

 隣の席の凪は半泣きで悲鳴を上げている。

 後ろの席から蟹沢が爆笑する声が聞こえて、そっちはちょっとホラーだ。

 コースターはグルングルン走り回って、最後に一気に滑り落ちて止まった。


「つ、疲れた……」

「はわ……はわわ……」


 渡はフラつきながら、凪と共にコースターから降りる。

 近くのベンチに座り込むと、蟹沢が飲み物を買ってきてくれた。


「お嬢様、雨水様、お召し上がりください。毒味は済ませてありますので」

「ありがと……や、怖かったあ」

「凪かなり叫んでたけど、喉大丈夫?」

「だめ、喉痛い」

「のど飴じゃないけど、飴あるよ。蟹沢さん、渡してもいいですか?」

「お品物を確認させていただけますか?」

「お願いします」


 間にボディガードを挟んでやり取りするのは、渡からすれば当たり前だし普通のことだけど、一般的にはちっとも普通のやり取りではない。

 しかし凪もそれを当たり前だと思っているので、特に気にもせずにやり取りしている。

 それならそれでいいか……と渡は流すことにした。

 ふと近くのベンチを見ると猿渡が真っ青な顔で項垂れていた。


「雨水様、お気になさらず」

「……はい」


 渡は凪と次の乗り物に向かう。


「渡くん、あれ乗ろうよ」

「うん、行こう」


 凪がフリーフォールを指差す。

 蟹沢が笑顔で頷いたので、渡も凪の手を取って歩き出した。

 午前中はひたすらコースター系を回った。

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