月のうさぎと地上の雨男
「ママに渡くんが彼氏になったって言っていい?」

「いいよ。俺も親に言っていいかな」

「もちろん。たぶん大事になる」

「そだね。大事にしちゃおうか。えっと、凪のパパに話がいくなら教えて。こっちも話を通すから」

「どこに?」

「頭領に」

「雨水美佳(みか)さんだっけ。背の高い美人のお姉さんだよね。……渡くんの伯母さん?」


 凪が首を傾げる。


「父の姉だよ。……怖いけど、ちゃんと話す」

「渡くんのパパさんっていくつ? お姉さんならそれより上ってことだよね。四十超えてるように見えないけど」

「五十過ぎてる。姿勢がいいし、ハキハキ話すから若くみえるよね。怖いんだよ」

「そんなに……。うちのパパとどっちが怖い?」


 凪の質問に渡は口を歪めた。

 日本人で、月の日本領大使を怖くないと思う者はいないだろうと思ったけど、黙っていた。

 それが付き合いたての彼女の父親とくればなおさらだ。


「彼女の父親が怖くない男なんていないと思うし、伯母さんの怖さはまた別だよ。○の錬金術の○ームストロング少佐に似てる」
「読んだことないな」

「おもしろいから、今度全巻持ってくる。でも、怖いけど、銃も剣も持ってないし、話が通じないわけじゃないから、凪のお父さんに話がいくなら、伯母ともきちんと話すよ」

「そんなに……」


 顔をしかめる凪に、渡は少し脅しすぎたと反省した。

 それでも、渡の伯母が○ームストロング少佐くらい怖いのは事実だ。(ゆずる)が○の錬金術を読んで、


「どこの世界も姉貴はおっかないな」


 とつぶやいていたのを渡は聞いたから、間違いない。

 しばらくしてから、凪はニコッと微笑んで顔を上げた。


「そんな人と対決してもいいくらい、渡くんは本気ってことだよね」

「できれば対決はしたくない。怖いし。だから対決せずに済むように、穏便にいこう。別に今々、表立って反対されてるわけじゃないしさ。対決は最後の一歩手前だね」

「一歩手前? 最後は?」

「凪と二人で、どこかに逃げる」

「……渡くん、意外とアグレッシブだよね」

「そうかな……」

「ありがとう。私も頑張ってパパを説得するね」

「……うん」


 渡はコーヒーを飲み干した。

 凪のグラスも空になったので、渡は立ち上がった。

 猿渡と蟹沢がどこからともなく現れたので、渡は凪と共に車へ戻った。
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