月のうさぎと地上の雨男
「私、お店で買い物ってほとんどしたことがないんだ」


 車から降りた凪はぽつんと呟いた。


「そうなんだ?」


 渡は凪と二度出かけているが、凪が買い物をしているところを見ていないと気づいた。

 水族館では渡が買ったし、先日の遊園地でも財布を出していたのは蟹沢だった。


「修学旅行とか、そういうのはあるけど、家に外商が来るし、お友達もそんな感じでね」

「じゃあ、一緒に買い物しようか。何か欲しいものはある?」

「渡くんとお揃いで普段使いできるのがいいな」

「じゃあ、雑貨屋さんに行ってみようか」


 渡は凪の手を取って歩き出した。

 駐車場の出口で並んでフロアマップを見て、行き先を決める。

 エレベーターで渡が振り返ると猿渡が微笑んで頷いた。


「私どものことは、どうかいないものとしてお楽しみください」

「ありがとうございます」


 きっと、凪一人か、同性の友達との外出だとこうはいかないのだろうと渡は察する。

 相手にもボディガードがついていて、のんびり買い物なんて雰囲気ではないに違いない。

 そうなったら、その辺で買い物をしてみたいだなんて言えないだろう。

 渡の伯母一家もそんな雰囲気だ。渡の従兄が同じ大学に通っているけれど、一緒に買い物や遊びに行ったりなんてしたことがない。

 学年が二つ違うから授業でも会わなくて、たまにすれ違うときに軽く挨拶をするくらいだ。それだって、


風間(かざま)の腰巾着にでもなったのかよ」


 なんて嫌みを言われることの方が多い。

 渡はため息をついて従兄のことを頭から追い出す。


「凪」

「なあに?」


 隣にできたばかりのかわいい彼女がいるのに、嫌なことを思い返すのはもったいない。


「凪は何色が好き?」

「うーん、ペールブルー」

「くすんだ水色?」

「もうちょっと濃い色かな。渡くんのイメージカラー」

「俺は黄色とワインレッドが好きだよ。この前の結婚式で凪がまとっていたドレスの色と、能力を使うときの凪の目の色」


 二人は雑貨屋についた。

 書きやすいシャーペンを探したり、匂い付きのボールペンを見たり、のんびり店内を散策する。


「渡くん、このペンケースかわいいねえ」

「シンプルで使いやすそうだ。これ、買おうかな」

「じゃあ私も買う。青にしよう」

「俺は黄色」

「イロチだ。嬉しいな」


< 36 / 69 >

この作品をシェア

pagetop