月のうさぎと地上の雨男
残された渡と凪は顔を見合わせる。
「ごめんね渡くん。ママがはしゃいじゃって」
「はしゃいでたんだ?」
「うん。『娘の彼氏』が気になってしょうがないんだってさ。あとその、悠と綾は、ちょっと、私のことが大好きで。その、『お姉ちゃんが取られた』って不貞腐れてて……」
「なるほど」
「まあでも、来るかはわからないし、映画観に行こうか」
二人は並んで応接室を出た。
蟹沢の後ろについて廊下を歩いていると、凪が立ち止まった。
「蟹沢、シアタールームはあっちだよ」
「俺がお願いしたんだ。先に厨房に行こう」
「厨房?」
首を傾げる凪の手を引き、渡は歩き出した。
到着した厨房には、渡が頼んでおいたものが用意されていた。
「これを一緒に作ろう」
渡が用意してもらったのは、ポップコーンだった。
アルミのフライパンにポップコーンの元が敷き詰めてあるタイプだ。
「バター醤油とキャラメル味があるね」
「……渡くんが、頼んでくれたの?」
「うん、この間の映画の時に、ポップコーンを食べながら見たかったって言ってたから。映画館っぽいポップコーンバスケットも用意してくれてるよ」
渡がバスケットを並べると、凪は勢いよく抱きついてきた。
「わ、びっくりした」
「ありがとう、渡くん」
「どういたしまして。二つあるから一緒に作ろう」
「うん、作る!」
凪はニコニコと顔を上げて、フライパンをガスコンロに乗せる。
火をつけてしばらく待つと、少しずつはじける音がして膨らんできた。
「できた!」
「じゃあ開いてバスケットに移そうか。熱いから気をつけて」
「いい匂い!」
ポップコーンを作っている間に蟹沢が紙コップに飲み物を用意してくれたので、それぞれ持ってシアタールームに向かった。
教室くらいの広さの部屋には大きなスクリーンがかかっていて、天井にプロジェクターが設置されていた。
ソファに並んで座ると、凪は渡にもたれかかる。
渡が部屋を見回すと、室内には誰もいなかった。
「大丈夫、二人きりだよ。どこかで見張ってはいるだろうけど」
擦り寄る凪を渡はそっと抱き寄せた。
「キス、してもいい?」
「うん。外でデートは楽しいけど、なかなかそういうのはできないからさみしかった」
何度か顔を寄せる。
切りが無くなりそうなので、渡はなんとか顔を離した。
「映画を観られなくなっちゃから、これくらいにしておこうか」
「観なくてもいいけど」
「そういうこと言わないで。一緒に映画観ながら食べたくて用意したんだからさ」
「うん、そうだった」
最後にもう一度だけ顔を寄せ、凪がリモコンを手に取った。
室内が暗くなり、映画は先日と同様に静かな風景と共に話が始まる。
「よかった……すっごいよかった……」
二時間ほどの映画が終わって部屋を明るくすると、凪が号泣していた。
「そんなに?」
渡がハンカチを差し出すと、凪は顔を覆ってしまう。
「うん、よかったよう。格差のある二人が周りに祝福されてるのがもう……」
「……そうだね」
それはまるで、凪と渡のようだった。
映画の二人とはもちろん状況は違うけれど、それでも重ねないわけにはいかなかった。
「ねえ、渡くん。さっきママが言ってたことなんだけどさ」
「うん?」
凪がわずかに顔を赤くして渡を見上げた。
何かを言いかけた瞬間に、勢いよく扉が開いた。
「姉さんから離れろ!」
「姉さんを泣かせて!」
「ごめんね渡くん。ママがはしゃいじゃって」
「はしゃいでたんだ?」
「うん。『娘の彼氏』が気になってしょうがないんだってさ。あとその、悠と綾は、ちょっと、私のことが大好きで。その、『お姉ちゃんが取られた』って不貞腐れてて……」
「なるほど」
「まあでも、来るかはわからないし、映画観に行こうか」
二人は並んで応接室を出た。
蟹沢の後ろについて廊下を歩いていると、凪が立ち止まった。
「蟹沢、シアタールームはあっちだよ」
「俺がお願いしたんだ。先に厨房に行こう」
「厨房?」
首を傾げる凪の手を引き、渡は歩き出した。
到着した厨房には、渡が頼んでおいたものが用意されていた。
「これを一緒に作ろう」
渡が用意してもらったのは、ポップコーンだった。
アルミのフライパンにポップコーンの元が敷き詰めてあるタイプだ。
「バター醤油とキャラメル味があるね」
「……渡くんが、頼んでくれたの?」
「うん、この間の映画の時に、ポップコーンを食べながら見たかったって言ってたから。映画館っぽいポップコーンバスケットも用意してくれてるよ」
渡がバスケットを並べると、凪は勢いよく抱きついてきた。
「わ、びっくりした」
「ありがとう、渡くん」
「どういたしまして。二つあるから一緒に作ろう」
「うん、作る!」
凪はニコニコと顔を上げて、フライパンをガスコンロに乗せる。
火をつけてしばらく待つと、少しずつはじける音がして膨らんできた。
「できた!」
「じゃあ開いてバスケットに移そうか。熱いから気をつけて」
「いい匂い!」
ポップコーンを作っている間に蟹沢が紙コップに飲み物を用意してくれたので、それぞれ持ってシアタールームに向かった。
教室くらいの広さの部屋には大きなスクリーンがかかっていて、天井にプロジェクターが設置されていた。
ソファに並んで座ると、凪は渡にもたれかかる。
渡が部屋を見回すと、室内には誰もいなかった。
「大丈夫、二人きりだよ。どこかで見張ってはいるだろうけど」
擦り寄る凪を渡はそっと抱き寄せた。
「キス、してもいい?」
「うん。外でデートは楽しいけど、なかなかそういうのはできないからさみしかった」
何度か顔を寄せる。
切りが無くなりそうなので、渡はなんとか顔を離した。
「映画を観られなくなっちゃから、これくらいにしておこうか」
「観なくてもいいけど」
「そういうこと言わないで。一緒に映画観ながら食べたくて用意したんだからさ」
「うん、そうだった」
最後にもう一度だけ顔を寄せ、凪がリモコンを手に取った。
室内が暗くなり、映画は先日と同様に静かな風景と共に話が始まる。
「よかった……すっごいよかった……」
二時間ほどの映画が終わって部屋を明るくすると、凪が号泣していた。
「そんなに?」
渡がハンカチを差し出すと、凪は顔を覆ってしまう。
「うん、よかったよう。格差のある二人が周りに祝福されてるのがもう……」
「……そうだね」
それはまるで、凪と渡のようだった。
映画の二人とはもちろん状況は違うけれど、それでも重ねないわけにはいかなかった。
「ねえ、渡くん。さっきママが言ってたことなんだけどさ」
「うん?」
凪がわずかに顔を赤くして渡を見上げた。
何かを言いかけた瞬間に、勢いよく扉が開いた。
「姉さんから離れろ!」
「姉さんを泣かせて!」