月のうさぎと地上の雨男
 飛び込んできたのは男女の子どもだった。凪と同じ、灰色の髪をしている。

 片方が渡と凪の間に割って入り、もう片方が渡を後ろに引っ張った。

 勢い余って渡はソファから転げ落ちた。目の前に食べかけのポップコーンが散らばるのがスローモーションで見える。


「なに……?」

「悠、綾! やめなさい!!」


 珍しく声を荒らげる凪に、渡は起き上がりながら目を丸くした。

 凪の前に立ちはだかった男の子が、目をつり上げて凪の方に振り返った。


「姉さん、なんでこんな男をかばうんだよ!」


 渡の後ろで服を掴んでいた女の子が叫んだ。


「そうだよ、こんな冴えない男のなにがいいの? うちより格下でしかも分家の次男! 図々しいよ!」


 渡はゆっくり立ち上がった。

 子どもたちはビクッと身体を震わせてから凪の前に立ち塞がった。

 きっと、大好きな姉を庇っているのだろうから、渡は怒る気にはなれなかった。


「わかってるよ、そんなこと」


 渡ができるだけ穏やかに言うと、子どもたち二人がキッと目を釣り上げた。

 足元でポップコーンが潰されている。


「わかってるなら出て行って!」

「もう姉さんに関わるなよ!」

「……凪、今日はお暇するね」


 子どもたちの後ろにいる凪を渡が覗き込むと、彼女は目からボロボロと涙をこぼした。


「なんで、そんなこと言うの」

「凪?」

「姉さん……?」

「なんで泣いてるの……?」


 子どもたちは慌てたが、渡が凪に近寄ろうとするとそれでも威嚇した。


「渡くん、行かないで」

「でも」

「今日はお帰りいただきなさい、凪」

 凛とした声に、その場の全員が動けなくなった。

 渡が振り向くと扉から月詠婦人がゆっくりと入ってくる。


「ママ、どうして?」

「このような見苦しい状態でお客様をおもてなしはできないでしょう。渡さん、申し訳ありません」


 婦人に頭を下げられた渡は、慌てて(かしず)いた。

 自分より目上の女性に頭を下げさせるわけにはいかないし、父と母、そして伯母に知られたら首を絞められるかもしれなかった。


「そんな、頭をお上げください! そのようなことを月詠様にさせたことが知れたら、僕が叱られますので!」

「ですが、これは我が家の失態です。お客様をおもてなしするどころか不快な思いをさせてしまって……。悠、綾、こちらへ」

「っ、……はい」

「……はい」


 子どもたちは顔を青ざめさせ、震えながら婦人に従った。

 二人は顔をしかめながら頭を下げた。


「凪、お客様をご自宅までお送りしていらっしゃい。この二人については、母がきっちり言い聞かせます。ええ、ええ、きっちりね!」

「わ、渡くん、行こう」

「うん。あの、お邪魔しました。失礼いたします」


 渡は頭を下げ、凪に手を引かれて屋敷を飛び出した。

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