月のうさぎと地上の雨男
 猿渡が車を用意していたので、急いで乗り込んだ。


「ひー、怖かったあ」

「そだね……たしかに、迫力のある方だ……」


 渡は怯える凪に笑いつつ、自分も息を整えた。

 確かに怖かった。

 伯母と同じくらい怖かった。


「ごめんなさい、弟と妹が失礼なことを言ってしまって。でもね、私はあなたが雨水の家の人だから好きなわけじゃない。それは分かって」

「……うん、ありがとう」

「私、ちょっと怒ってるからね。渡くんが悠と綾に『わかってる』って言ったの。あんな言いがかり、理解なんてしないでよ」


 凪はまっすぐに渡を見ていた。

 その顔が婦人とそっくりで、渡はやっと「ああ、この子は本当に怒ってるんだ」と気づいた。


「……凪がそう言ってくれるのは嬉しいよ。本当に嬉しい。でもね、二人が言ってたことは言いがかりじゃなくて事実だ。俺は分家でしかも次男だ。月詠のお姫様に釣り合う身分じゃない」

「渡くん」

「でも、だからって何もせずに君と離れる気はないよ。事実は事実。じゃあどうするか一緒に考えよう。俺だって凪のこと好きだからさ。身分が違うからって諦めたりしない」


 渡が言い切ると、凪の瞳からまたぽろぽろと涙がこぼれた。


「うん、うん……! ありがとう渡くん」


 車が渡の家のロータリーに止まる。

 渡は凪の手の甲にそっと口付けた。

 凪がはにかむのを確認して車から降りる。


「また連絡するね。冬休みは忙しくなっちゃうんだけど」

「うん、俺も連絡する。たぶん俺もそうだから、また学校が始まったら一緒に帰ったりデートしよう」


 渡は手を振って、車を見送った。


「さて……親父に相談しなきゃ」


 凪の弟と妹には反対されていること、月詠婦人には反対されていなさそうなこと。

 きっと歌帆に言うと「兄妹の反対がなんですか!」とけしかけてきそうだから、まずは譲に言ったほうがいい。



 渡は背筋を伸ばしてマンションに入った。
< 50 / 111 >

この作品をシェア

pagetop