月のうさぎと地上の雨男
「姉さんに何がわかるんだよ!」

「わからないわね、そんな拗ねた幼稚な考えなんて!」


 渡と雫は思わず目を見合わせる。


「長女だからって偉そうに!」

「あなたがひがんでるだけでしょ。悔しければ何か一つでも私を上回りなさいよ」

「なんだと!?」


 雫が渡の服の裾を掴んだ。

 渡は頷いて一歩下がる。

 しかし離れきる前に佳貴に見つかった。


「渡! お前どういうつもりだよ、この間男(まおとこ)!」

「間男!?」


 佳貴に怒鳴られて、渡は思わず聞き返してしまった。

 普段の生活ではなかなか聞かない単語だ。


「俺の婚約者を横取りしやがって!」

「佳貴くん、落ち着いて……そもそもそんなに乗り気じゃなかったんだよね?」


 雫が口を挟むが、佳貴は無視して渡を睨んだ。


「さっきも言っただろ! 中学生が小学生と結婚しろって言われて、乗り気な方がおかしいだろうが。でも、いつかはあの子と結婚するんだろうと思ってたから、彼女も作らずにここまで頑張ってきたのに……なんだよ、今さら!」

「婚約したいなら、母さんに言えばいくらでもお見合いの話を持ってくると思うけど」


 園佳が言うと、佳貴はますます気色ばんだ。


「そういう話じゃないんだよ! くそ、地球から出たかったのに……」

「月に行きたいってこと?」

「渡だって、父親を見てうんざりしないのかよ。姉にヘコヘコこびへつらって、小間使(こまづか)いみたいにこき使われてさ。僕はあんなふうになりたくないんだ」


 肩を落とす佳貴に、渡は真顔で手のひらを握り込んだ。


「佳貴兄さん、父に謝ってくれ」

「は? なんだよ、いきなり」

「俺は父の仕事にうんざりしたことなんてない。母や俺たち兄妹のために汗水垂らして働く父を、こびへつらう小間使い? ふざけるなよ」

「う、うるさいな、事実だろうが!」

「……園佳姉さん。こいつ、殴っていいかな」


 近くで成り行きを見守っていた園佳は、美佳そっくりの顔でニコッと微笑んだ。


「いいよ」

「ちょ、姉さん!? 弟がかわいくないのかよ!?」

「今のはあなたが悪い。渡くんが気が済むまで殴っていい」


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