月のうさぎと地上の雨男
 ……前途多難ではあるけれど、渡との交際はそれなりに順調だと凪は思っている。

 渡は誠実に凪に寄り添ってくれるし、雨水家は月詠家に対して好意的に接してくれている。

 年末のパーティで凪は母と共に雨水の頭領とその跡継ぎの娘、そして渡の父とも挨拶をしたが、三人とも穏やかで真面目な雰囲気の人たちだった。

 帰り際、渡の父と凪の母が言葉を交わしていて、


「愚息がご迷惑をおかけしていますが、よろしくお願いします」

「とんでもない。きちんとしたご子息でいらっしゃいます。先日はこちらこそご迷惑をおかけしました」


 とやり取りしていた。

 これは両家公認と見ていいのだろうか。

 凪はそう思いたいけれど、父にはまだ伝えていない。

 凪の父親は、娘には甘いが月の日本領大使として厳格な人物でもあった。

 渡は月にとって有益になり得ると凪は思っている。

 けれど、父が同じ判断をするのかはわからないし、悠のように『格』の話を持ち出されると凪には反論ができない。

 父が口にするのなら、きっとそれはきちんとした理由があってのことだろうから。


「むう……。私がもっと普通の家の子だったら、こんなに悩まずに渡くんと一緒にいられたのかな」


 凪は自室のベッドに倒れ込んだ。

 少し考えてから、凪は起き上がって風呂に向かった。


『普通の家の子だったら』


 生まれてから何度となく考えたことだ。

 でも、凪はそれを止めようと思った。

 今の凪とずっと一緒にいられるように渡が頑張ってくれているのに、自分がそれを否定するのは失礼だ。


「私も、頑張るからね、渡くん」


 風呂に入る前に、スマホのカバーに入れた渡と撮ったプリクラを見た。

 その顔を見るだけで、凪は何でもできるような気がした。



 夕食後、凪は綾に捕まった。


「約束したよね、お姉ちゃん」

「わたくしも聞きたいわあ」


 妹どころか、母の美凪子(みなこ)にまで詰め寄られて、凪は渡との出会いをほぼ説明させられる羽目になった。

 二人は最後まで聞き終えて、目を輝かせた。


「あらあら、王子様じゃない。それなら仕方ないわね……」

「何が仕方ないのよ」

「いいなあ、お姉ちゃん。私も、そういう運命的な出会いをしてみたいなあ」

「次に悠が渡くんに突っかかったら止めてよね」

「もちろん。悠のあれはただのシスコンだし、無い物ねだりだもの。その渡くんがお姉ちゃんを幸せにしてくれるなら、私は言うことないよ」


 綾はニコッと笑って風呂に行った。

 美凪子も同じように微笑んだ。


「聞く限り、真面目できちんとした殿方ですし、素行にも問題はないしね。あとはお父様の判断ですけども」

「誰に何を聞いたの? 素行って?」


 凪がギョッとして聞き返すと、美凪子は微笑んだまま凪を見た。


「まさか、無条件で信用されると思ったの?」

「お、思ってないけど」

「助けて下さった方が、雨水の殿方でよかったわね」

「……うん」


 美凪子の圧に、凪は頷くしかなかった。
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