月のうさぎと地上の雨男
 凪はうつむいた。

 渡も、そんな凪に何と言えばいいのかまったくわからない。


「凪、顔を上げて。俺の顔を見て」

「ん……」


 不満そうな顔が渡を見上げた。

 そのふくれ面がかわいくて、渡は吹き出しそうになる。


「好きだよ」

「……うん。ごめん、わがままで」

「それはワガママとは言わない。俺だって関係ない人に凪と過ごす時間を減らされて不愉快だからね」


 渡は笑って絡めていた凪の手を持ち上げた。

 指先に唇を寄せて、すぐに離した。


「そんな顔しないで。俺の言うこと、信じられない?」

「ううん。そんなこと、ないよ」


 凪は渡の手を引き寄せて頬を寄せた。


「好きよ、渡くん。私だけの渡くんでいて」

「少なくとも俺はそのつもりだ。そうじゃなきゃ、雨水の頭領に頭を下げたり、君の母君に挨拶したりしない。」

「うん。私もパパに言わなきゃ。……そういえば、元々雨水家と私で婚約の話があったのよね?」


 渡は凪を見て軽く頷いた。

 正直、渡が思い出したい話題ではない。


「それ、渡くんじゃダメかな」

「どうだろう……?」


 渡は瞬きをして考えた。

 確かに、頭領の美佳(みか)伯母と父の(ゆずる)は、渡が月詠に婿入りすることに賛成しているようだった。

 もとから雨水の誰かを、という話であるなら、渡を凪の見合い相手として出しても問題ないはずだ。


「たぶん、ダメじゃないと思う」


 凪の顔がパッと明るくなった。


「帰ったら、父と頭領に相談してみるよ」

「わ、やったあ。じゃあ私もママ……母に確認します。でも、お見合いして渡くんが目の前にいたら、私ニヤけちゃうかも」

「俺も」


 二人はそのまま手をつないで、近くの庭園で言葉少なに散歩した。



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