月のうさぎと地上の雨男
その震える声に、渡は唇を噛んだ。
ゆっくり息を吸って吐き、できるだけ穏やかな笑顔を浮かべた。
「……凪、よかったら家に上がっていく?」
「えっ」
「猿渡さん、蟹沢さん、大丈夫ですか?」
「確認いたします」
猿渡が素早く月詠家へと電話をかけた。
渡も家族用グループチャットに「10分後に彼女を連れて帰る」と送った。
歌帆からすぐに『OK』とスタンプが返ってくる。
渡は凪にスマホを見せた。
「凪、母さんが俺の彼女を連れて帰っていいって」
凪が画面を見ている間にも、雫から「着替えるから待って!」「蛙前が張り切っておやつ用意してるよ!」と次々にメッセージが届いた。
譲からも『まだ帰れねえ!』と泣き言が送られてきている。
「う、うん……」
凪は何度か瞬きをしてハンカチで目元を拭った。
蟹沢がルームミラー越しに渡に会釈をしたので、渡も頷く。
「お待たせいたしました。奥様より許可をいただけました。蟹沢が同行いたします」
「突然のことなのに、ありがとうございます。地下駐車場を使ってください。母から話を通してあります。凪、行こう」
渡は凪の手を引いて車から降りた。
蟹沢がついてくるのを確認して、マンションへと入る。
「こっち」
最上階へ上がると、蛙前が待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、渡様。月詠様、よくお越しくださいました」
「突然の訪問、申し訳ありません」
凪が頭を下げると蛙前が柔らかく微笑んだ。
「とんでもない、お坊っちゃんがお付き合いなさっている彼女さんを連れて帰ると聞いて、奥様もお嬢様も大喜びです。どうぞ、お上がりくださいませ」
渡が上がり、凪と蟹沢も続いた。
リビングへ向かう廊下で渡は凪にささやく。
「母さんと妹がはしゃいでると思うから、覚悟しておいて」
「覚悟?」
「うん。思い切り甘やかされる覚悟」
凪が聞き返す前に蛙前が扉を開けた。
「いらっしゃい、凪ちゃん」
歌帆が笑顔で出迎えた。
「お、お邪魔します。渡さんとお付き合いさせていただいている、月詠凪と申します」
緊張しながら頭を下げる凪に歌帆と雫がニコニコしていた。
「はじめまして、渡の母の歌帆です」
「妹の雫です。わあ、かわいい。渡の彼女なのにかわいい!」
「雫、失礼だぞ。母さん、俺の彼女だから優しくしてあげて。蛙前、おやつを用意してくれたんだろ?」
「はい、腕によりをかけておりますよ。どうぞこちらへ」
「私も食べる!」
「母さんはいつでも優しいでしょうが」
渡は凪を連れてソファへと並んで座った。
向かいに歌帆と雫が並んで、凪にあれこれ話しかけている。
「お兄ちゃんのどこがよかったの? 地味じゃない?」
「凪ちゃん苦手な食べ物ある? アレルギーは?」
「凪さん渡の行ってる大学の附属校でしょ? 来年から先輩だね」
「蛙前、お茶のおかわりお願い。凪ちゃんはおかわりいる?」
凪はあわあわしながら返事をして、菓子を受け取った。
渡は何も言わずに三人を見ながらお茶をすすった。
やがて皿が空いたので渡は立ち上がった。
ゆっくり息を吸って吐き、できるだけ穏やかな笑顔を浮かべた。
「……凪、よかったら家に上がっていく?」
「えっ」
「猿渡さん、蟹沢さん、大丈夫ですか?」
「確認いたします」
猿渡が素早く月詠家へと電話をかけた。
渡も家族用グループチャットに「10分後に彼女を連れて帰る」と送った。
歌帆からすぐに『OK』とスタンプが返ってくる。
渡は凪にスマホを見せた。
「凪、母さんが俺の彼女を連れて帰っていいって」
凪が画面を見ている間にも、雫から「着替えるから待って!」「蛙前が張り切っておやつ用意してるよ!」と次々にメッセージが届いた。
譲からも『まだ帰れねえ!』と泣き言が送られてきている。
「う、うん……」
凪は何度か瞬きをしてハンカチで目元を拭った。
蟹沢がルームミラー越しに渡に会釈をしたので、渡も頷く。
「お待たせいたしました。奥様より許可をいただけました。蟹沢が同行いたします」
「突然のことなのに、ありがとうございます。地下駐車場を使ってください。母から話を通してあります。凪、行こう」
渡は凪の手を引いて車から降りた。
蟹沢がついてくるのを確認して、マンションへと入る。
「こっち」
最上階へ上がると、蛙前が待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、渡様。月詠様、よくお越しくださいました」
「突然の訪問、申し訳ありません」
凪が頭を下げると蛙前が柔らかく微笑んだ。
「とんでもない、お坊っちゃんがお付き合いなさっている彼女さんを連れて帰ると聞いて、奥様もお嬢様も大喜びです。どうぞ、お上がりくださいませ」
渡が上がり、凪と蟹沢も続いた。
リビングへ向かう廊下で渡は凪にささやく。
「母さんと妹がはしゃいでると思うから、覚悟しておいて」
「覚悟?」
「うん。思い切り甘やかされる覚悟」
凪が聞き返す前に蛙前が扉を開けた。
「いらっしゃい、凪ちゃん」
歌帆が笑顔で出迎えた。
「お、お邪魔します。渡さんとお付き合いさせていただいている、月詠凪と申します」
緊張しながら頭を下げる凪に歌帆と雫がニコニコしていた。
「はじめまして、渡の母の歌帆です」
「妹の雫です。わあ、かわいい。渡の彼女なのにかわいい!」
「雫、失礼だぞ。母さん、俺の彼女だから優しくしてあげて。蛙前、おやつを用意してくれたんだろ?」
「はい、腕によりをかけておりますよ。どうぞこちらへ」
「私も食べる!」
「母さんはいつでも優しいでしょうが」
渡は凪を連れてソファへと並んで座った。
向かいに歌帆と雫が並んで、凪にあれこれ話しかけている。
「お兄ちゃんのどこがよかったの? 地味じゃない?」
「凪ちゃん苦手な食べ物ある? アレルギーは?」
「凪さん渡の行ってる大学の附属校でしょ? 来年から先輩だね」
「蛙前、お茶のおかわりお願い。凪ちゃんはおかわりいる?」
凪はあわあわしながら返事をして、菓子を受け取った。
渡は何も言わずに三人を見ながらお茶をすすった。
やがて皿が空いたので渡は立ち上がった。