月のうさぎと地上の雨男
一時間もしないうちに、歌帆は譲を連れて帰ってきた。
よれよれの譲を、蛙前が風呂へ向かわせる。
少し元気になったらしい譲と三人で晩ごはんを取った。
「春休みに、渡と凪ちゃん、風間の宗輔くんと綾さんの四人で何度か出かけただろう?」
ため息をつきながら譲が言った。
「その話を渡と宗輔くんがしているのを佳貴が聞いて焦ったらしい。すでに渡と凪ちゃんの仲が風間も公認であると気付いてな」
「……なるほど」
たしかに渡は宗輔とその話を学校でしたことがある。
食堂や移動中に、
「次どこがいいかな」
「せっかくだし景色がいいとこがいいな」
「アウトドア用品を見に行ってもいいね」
なんて、ほぼ互いにのろけていたような会話を二人でした覚えはある。
それを聞いて、佳貴が焦ったというのか。
正直、渡には意味がわからなかった。
「えー……なんそれ。あ、でも佳貴に『貸しておいてやる』とは言われた。正月、帰るときに」
「それは言っとけよ。それで焦った佳貴くんが義兄さんに『雨水の頭領の息子として、母さんの役に立ちたいんだ』とかなんとか言って、月詠の頭領に連絡を取った……ということだな」
「それ、美佳伯母さんめちゃくちゃ怒ってたでしょ」
「それについては思い出したくない」
小さくなって首を横に振る譲に、歌帆がニコッと微笑んだ。
「佳貴くんはしばらく謹慎、義兄さんはスマホお取り上げですって」
「あらら」
「まあ、あちらはあちらで、姉貴と園佳さんがとにかく優秀だからな。義兄さんと佳貴くんの肩身が狭かったのも原因だとは思うが……それにしたってな」
「まあうちのことはいいんだけど、月詠の頭領にお見合い中止の連絡はしたの?」
「……できてない」
やっぱり、と渡は思ったが黙っていた。
「月の位置が良くなくて、うまく連絡がつかないんだ。……たぶん佳貴くんはそのタイミングも見計らっていたんだろう」
「そっかあ。今聞いた話は凪にしても大丈夫?」
「かまわない。というか歌帆さんから、月詠婦人に伝えているだろう?」
「ええ、情報は共有済みです」
「しかし凪ちゃんも、いきなりそんな話をされて不安だろうから、渡からも話しておきなさい」
「うん、そうするよ」
食事を終えて、渡は凪に判明した状況を送っておく。
風呂を終えてから、渡がベッドに寝転がってスマホを見ると、一通のメッセージが届いていた。
『あの子と結婚するのは僕だ。分家は分家らしく引っ込んでろ』
渡は黙ったまま、拳を握りしめた。
よれよれの譲を、蛙前が風呂へ向かわせる。
少し元気になったらしい譲と三人で晩ごはんを取った。
「春休みに、渡と凪ちゃん、風間の宗輔くんと綾さんの四人で何度か出かけただろう?」
ため息をつきながら譲が言った。
「その話を渡と宗輔くんがしているのを佳貴が聞いて焦ったらしい。すでに渡と凪ちゃんの仲が風間も公認であると気付いてな」
「……なるほど」
たしかに渡は宗輔とその話を学校でしたことがある。
食堂や移動中に、
「次どこがいいかな」
「せっかくだし景色がいいとこがいいな」
「アウトドア用品を見に行ってもいいね」
なんて、ほぼ互いにのろけていたような会話を二人でした覚えはある。
それを聞いて、佳貴が焦ったというのか。
正直、渡には意味がわからなかった。
「えー……なんそれ。あ、でも佳貴に『貸しておいてやる』とは言われた。正月、帰るときに」
「それは言っとけよ。それで焦った佳貴くんが義兄さんに『雨水の頭領の息子として、母さんの役に立ちたいんだ』とかなんとか言って、月詠の頭領に連絡を取った……ということだな」
「それ、美佳伯母さんめちゃくちゃ怒ってたでしょ」
「それについては思い出したくない」
小さくなって首を横に振る譲に、歌帆がニコッと微笑んだ。
「佳貴くんはしばらく謹慎、義兄さんはスマホお取り上げですって」
「あらら」
「まあ、あちらはあちらで、姉貴と園佳さんがとにかく優秀だからな。義兄さんと佳貴くんの肩身が狭かったのも原因だとは思うが……それにしたってな」
「まあうちのことはいいんだけど、月詠の頭領にお見合い中止の連絡はしたの?」
「……できてない」
やっぱり、と渡は思ったが黙っていた。
「月の位置が良くなくて、うまく連絡がつかないんだ。……たぶん佳貴くんはそのタイミングも見計らっていたんだろう」
「そっかあ。今聞いた話は凪にしても大丈夫?」
「かまわない。というか歌帆さんから、月詠婦人に伝えているだろう?」
「ええ、情報は共有済みです」
「しかし凪ちゃんも、いきなりそんな話をされて不安だろうから、渡からも話しておきなさい」
「うん、そうするよ」
食事を終えて、渡は凪に判明した状況を送っておく。
風呂を終えてから、渡がベッドに寝転がってスマホを見ると、一通のメッセージが届いていた。
『あの子と結婚するのは僕だ。分家は分家らしく引っ込んでろ』
渡は黙ったまま、拳を握りしめた。