月のうさぎと地上の雨男
 月詠一家の様子を、渡は美香と共に密かに観察していた。

 美香の唇がわずかに動き、渡は静かに頷いた。

 渡が美香に目配せをすると、美香は首を横に振った。

 空気を震わせないように、静かに静かに二人はやり取りを続ける。

 そうしているうちに譲が到着した。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「とんでもない」


 悠人が頷き、改めて月詠家と雨水家で向かい合った。

 今度は上座に悠人と美佳が向かい合い、その隣に美凪子と譲、凪と渡、貴生、佳貴と続く。


「一連の状況について、流れを確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


 美佳が口火を切り、美凪子が頷いた。


「おそらくこの場で判明したこともあるでしょうから、お互いに整理していきましょう。えっと書くものを……」

「では、僕が書記を務めさせていただきます」


 渡は素早く立ち上がった。

 滝草がホワイトボードとペンを持ってきてくれたので、渡はそれを受け取った。

 美凪子が悠人に顔を向けた。


「あなたが悠から話を聞いたのは、いつでしたか?」

「三月の末だ」


 渡はホワイトボードを上下に分けるように横線を引き、左の四分の一ほどに三月末と記した。

 その後は、凪が悠人から見合いを指示された時期と、凪から連絡を受けた渡や雨水家の動きを互いに確認した。

 貴生と佳貴は青ざめた顔で、問いかけに答えていった。

 佳貴が正月の時点で、どうにか凪と正式に婚約できないかと思い悩んでいたこと。貴生が佳貴の様子に気づき、手助けを申し出たこと。美佳と譲が悠について話していた場面を耳にしたこと。ホワイトデーに風間(かざま)宗輔(そうすけ)(あや)が渡と凪と共に出かけたと知り、焦って悠に接触を試みたこと。


「なるほど」


 一連の流れを確認し終え、悠人が頷いた。


「悠については帰宅してから確認しよう。雨水殿につきましては、そちらでご対応いただくということでよろしいですかな?」

「はい。月詠様にご迷惑をおかけしたことを深く理解させます。まことに申し訳ございませんでした」


 美佳と譲、渡の三人が深く頭を下げた。

 凪が口を開きかけたが、美凪子が制止する。

 頭を上げた美佳は貴生と佳貴に顔を向けた。


「何か、言うことは?」


 貴生は青い顔で首を横に振った。


「……ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。深く、陳謝いたします」


 消え入りそうな声で、貴生は深く頭を下げた。

 美佳は厳しい面差しで佳貴に視線を向けた。

 佳貴は涙目で顔を上げ、美佳に声を荒らげた。


「ぼ、僕は……悪くない! 本当なら、僕が!」

「……佳貴」


 静かに美佳は息子の名前を呼んだ。
< 94 / 114 >

この作品をシェア

pagetop