月のうさぎと地上の雨男
 襖が閉まり、二人の足音が遠のいたことを確かめてから、渡は滝草と目を合わせた。


「悪いね、滝草。君のご主人の顔を立てられなくて」


 渡の想像より、低い声が出たけど、どうにもならなかった。


「おやめください。この上かばわれては、貴生様も佳貴様も面目が立たなくなってしまいます」

「自業自得だよ」


 渡が微笑んで言うと、滝草は目を丸くした。


「渡様……」

「滝草。俺は怒っているんだ。佳貴兄さんが凪を傷つけたことも、正月に父を侮辱したことも、貴生さんが凪を利用したことも。分家ごときに叩き潰されて、二度と立てなくなればいいのさ」


 滝草は唇を噛み、それ以上何も言わなかった。

 渡は微笑みを保ったまま、軽く会釈して部屋を出た。


 雨が再び降り出し、地面を強く叩いていたが、渡はそれを弱める気にはなれなかった。
< 98 / 114 >

この作品をシェア

pagetop