総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
通りを曲がると、ざわつきが悲鳴に近い声に変わっていた。
人だかりの中心から、ぱきん、とまた何かが砕ける音。
思わず足を止めると、人だかりの中心にぽっかりと空間が空いているのが見えた。
道の中央に立っていたのは、男が一人。
年は三十代くらいだろうか。
両腕で自分の体を抱きしめるようにして、荒い息を吐いている。
その足元から黒い靄のようなものが、じわじわと滲み出ていた。
煙みたいで、でも煙とは違う。
空気そのものが汚れていくみたいな不快な感覚。
「こいつ、正気じゃないっ…!」
誰かがそう叫んで、人々が一歩、二歩と後ずさる。
男の周囲だけ空気が歪んで見えた。
建物の壁が、まるで内側から押されるみたいに軋んでいる。
男が突然顔を上げ。
「近づくな!!」
叫びと同時に、靄が爆ぜた。
衝撃波みたいに周囲の空気が弾かれて、悲鳴と一緒に人が倒れかける。
私は立っていられた。
能力の影響を直接受けていないから。
そして、叶兎くんも身体強化のおかげで、衝撃に一歩も引いていない。
「胡桃、いける?前みたいに隙を作ってその間に俺が拘束する」
「うん。任せて」
私は一歩前に出て、男をまっすぐ見据える。
あれはおそらく、能力が暴走している。
不安定で、荒れていて、制御されていない力。