箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 ――どうしよう。胸が苦しい……これ、なに?

「ありがとう。参考になる。こういう気づいたことはこれからもメモに残してくれる?」

「はい。私の主観で良ければ……」

「巳波さんの主観が大事なんだよ」

 ――え?

「もっと聞かせて」

 ドキリ――その音が身体中に響いた。

 その後に襲ってくる胸の痛み、それは心臓を絞られるようで息を吸うのも吐くのもつらいほど。それでもどうしてなの? キュッと苦しいのに、たまらない気持ちになった。

 苦しくてつらいのに、嫌じゃない。
 この苦しみの先にはきっと、もっと耐えられないものがある気がするのにそれを知りたいと思う。

 ――私……。

「巳波さんが考えたことや気持ちは、なんでも吐きだしてくれていいよ」

 言えずにいたの、ずっと……ずっとだ。
 
 好きな服の色も、つけたいアクセサリーの種類だって。

 ピアノの曲は厳格なバッハじゃなくて軽快なジャズやポップスが弾きたいの。

 スカートにヒールじゃない、デニムを履いてスニーカーで走ってみたい。もう駆け出すようなことは子供の時以来一度もないんだ。

 おしとやかに、慎ましく。品を求めて、創り上げてきたもの……。

 友達にも、家族にだって――言えずにいた。

「巳波さん……?」

 ――どうしよう、私……。

 私には、決められた人と結婚する未来がある。それはもうどうすることもできない現実だ。
 ここを去るときだって……結婚相手が見つかったとき、その約束で今がある。

 好きになっちゃダメなのに。

 この瞬間、私は玄野さんを……好きになってしまった。
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