箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
「我儘、すみません」

「こんなの我儘に入らないよ。(やっす)いお願いだわ」

 ――お願い……。

 我儘で……お願いだった。

 自分の我儘(思い)を訴えて聞き入れてもらうことはしてきたことがあまりない。言えば大抵のことは叶ったけれど、ダメと言われることは頭からお願いしたことなんかなかったから……。

 でも玄野さんには言えた。そしてそれを叶えてもらえたことに胸がただ熱くなっている。

 暖簾をくぐった瞬間、熱気と濃厚な香りに私の肩がわかりやすくびくっと跳ねて、それを目ざとく玄野さんに笑われる。

「怖気づいた?」

「い、いいえ!」

 ムキになるように言い返したらニヤッと笑われてしまう。体感したことのない雰囲気に驚いたのは事実だけれど、怖いなどではない。なにより怖いことなどないのだ。

「玄野さんがいてくださるから平気だし……」

「え?」

「ひとりじゃ、こんなところ絶対入れないけど。玄野さんが一緒なら、怖いとかないから……」

「……」

「平気」

 ぽつり呟いていたのは無意識だった。それよりも目の前の世界に夢中になってしまっていたから。

「これはなんですか?」

「券売機。これでチケットを買う」

「チケット……?」

 目を丸くする私を背後から包み込むようにして券売機の操作を教えてくる玄野さん。その状況にもドキドキはするが、目の前の初体験にだってドキドキしている。お札が吸い込まれる音に驚き、ガコンと落ちてきたプラスチックの食券を掴み取り、両手でしっかりと拾い上げた。

「これが……ラーメンとの引換券」

「そう。次、こっち」
 
 活気ある店内、油で少し滑る床に足元をとられそうになりながらも玄野さんの後を追いつつ、カウンターの隅へと滑り込んだ。
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