箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 閉ざしている心の扉を開けさせられる。見ないよう、触れないように……そうやって誤魔化してきた自分を暴かれる。

「……特別助成金ってなんですか?」

 発せられた言葉に息を呑む。そこで思考が取り戻された。悲しみの表情の答えは俺の抱える悩みと同じものだった。

「いろいろ、気遣わせてすみませんでした。玄野さんは知っていたんですよね? 私が遠縁の親戚ではなく、巳波の一人娘であることを。知っていて、ずっと支えてくださっていたんですね」

 口の中が乾く。
 なにか言葉を発しようと思うのに、なにも言葉にできない。

 ひどく落ち着いた声で呟かれる言葉たち、悲しい表情はずっと変わらない。なんならもう泣きそうな瞳が俺を見上げてきて言うのだ。

「もう……勘違いしたくないんです。仕事だけじゃない、自分の気持ちだって……私には、夢見ることも叶えることもできないって、わかったから」

 違う、そんなことを言えるわけがない。
 俺の話したいこと? そんなのは言い訳じゃないか。

 話をしたところで、彼女の望む答えなんて与えてやれない。失望されるだけの現実しか持ち合わせていないのだから。

 そんな何も言えない俺に彼女は言った。

「もう、充分です。玄野さんがいっぱい、叶えてくれたから。本物の仕事みたいに自信を持たせてくれて、優しくしてくれて。それだけでもう充分だから。だから私はもう、いいんです」

 もういいと……そんな言葉を言わせたいんじゃない。

 でもそんな言葉を投げられてその手を掴んでやることも出来ない俺に、彼女は背を向けて走り去ってしまった。

 朝焼けの中、艶のある黒髪が眩しく光り溶けていく。

 俺には手の届かないお姫様……簡単に触れられる子じゃなかった。なのに俺は……なぜ不用意に触れてしまったんだろう。無意識に手を伸ばしていたんだろう。

 触れちゃダメだった。
 見つめちゃダメだった。

 俺は――彼女には釣り合わない相手なのに。
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