Bella Notte
 溢れ出す楓への気持ちが、オレの身体を突き動かしこの胸の中へ抱きしめてしまいたいと衝動となって、もう抑える事が出来そうにない。

 ごめん。楓。

 考えるより先に、身体が動いた。

 それはごく自然と、そこが1番の場所だと前から決まっていたように。
 後ろから楓を包み込んで、優しく抱きしめる。

 驚いた楓の体が小さく跳ねて、息を飲むのが分かる。
 柔らかな身体に触れる、それだけで心が震える。

「楓。1人で何やってる?」

 耳元で甘く囁けば、オレの声で抱きしめているのが誰か分かった様で少し体の力が抜ける。

「お父さんとお母さんと話してた。ってか、桜井。離してよ」

 正気に戻ったらしい楓が身じろいでささやかな抵抗を繰り返す。
 今日こそは絶対に離さない。

「寒いからイヤだ。このまま楓が温めて」

 甘えるような声色で抱きしめる腕を少しだけ強めて、楓の細い肩に顔を埋めれば、楓の優しい香りが、オレの胸を締め付ける。

「やっと、やっと捕まえた」

 そう言って大きくため息を1つつく。

「桜井?どうした?酔ったの?」

 可愛い声を少し震わせながら、オレを見ようと体をよじる楓。

「今夜は一滴も飲んでないよ」

 そのままオレと向かい合う様に体を引き寄せ再び抱きしめる。

「ねぇ。ちょっと」

 尚も抗議の声を上げて胸板を細腕で力なく押されて少し距離をとられる。

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