Bella Notte

 上がるお互いの吐息混じりに、楓はふと顔を背けようとする。

「オレを見て」

 そう囁けば、恥ずかし気に視線を合わせてくれる。
 そのまま返事も聞かずに続けてしまう。

 激しく優しく、応えるように甘く呼吸をする楓しか見えない。

「……嫌ならそう言って」

 お互いの甘い息遣いが、時折砕ける優しい波音の合間に聞こえた。
 愛を確かめるように……どのくらい続けていたのか分からない。

 始めは感じていた楓のささやかな抵抗はすっかりなくなって。
 ふと、大波が投げ出していた足に豪快にかかり、驚いた楓が声を上げた。

 かなり濡れてしまったので、これではもう会場には戻れない。

「捕まって」

 そう言って、お姫様抱っこで抱き上げる。
 楓はくったりと素直にオレに抱かれている。


 楓を抱きしめたまま、会場を横切るほど考えなしではない。

 だがこのまま人前に出て、牽制するのも面倒が無くていいと思ったりもして。

 楓からきちんと返事を貰えていない以上、時期尚早だと理性を働かせた。
 海辺から、そのまま会場の外を迂回して乗ってきた車へ向かう途中。

「楓さん?」

 入り口近くで、楓を探していたらしいさっきの男と鉢合わせてしまった。

「あぁ、楓のお知り合いですか」

 愛想も振りまきたくない相手に、無表情で大人げない対応をついしてしまう。
 どれだけ余裕が無いんだと、内心自分に呆れながら。
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