時を縫う英雄譚
まだ規定値以下」
「でも子どもが――」
「一ノ瀬」
名前だけで、止める。
芽吹は、路地の入口に立ったまま動かない。
「今、あなたが動いたら、
それは“私の裁定違反”になる。
だから…!!」
雨が、二人の間に落ちる。
「……だから?」
透の声が震える。
芽吹は、初めて視線を逸らした。
「私がいく」
その言葉は、
自分の喉も切っていた。
泣き声が、悲鳴に変わる。
空間が、裂けた。
虚影が、完全に現界する。
中級程度の実力。
芽吹一人でも簡単に倒せる虚影。
だけど…
「……芽吹!」
芽吹が、針を抜いた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、迷いが見えた。
次の瞬間。
「《リグロウ・スレッド》…!!」
冷たい声。
糸が走る。
虚影を、子どもから引き剥がす。
完璧だった。
だが――遅い。
子どもは、倒れた。
命はある。
けれど、何かが欠けている。
記憶の一部。
感情の接続。
縫い損ねた痕。
…後遺症が残った。
透は、膝をついた。
「……俺なら、間に合った」
それは、芽吹に対してか。
それとも、自分に対しての言葉だったのだろうか。
芽吹は、答えない。
答えられない。
ただ、俯いて震えていた。
「でも子どもが――」
「一ノ瀬」
名前だけで、止める。
芽吹は、路地の入口に立ったまま動かない。
「今、あなたが動いたら、
それは“私の裁定違反”になる。
だから…!!」
雨が、二人の間に落ちる。
「……だから?」
透の声が震える。
芽吹は、初めて視線を逸らした。
「私がいく」
その言葉は、
自分の喉も切っていた。
泣き声が、悲鳴に変わる。
空間が、裂けた。
虚影が、完全に現界する。
中級程度の実力。
芽吹一人でも簡単に倒せる虚影。
だけど…
「……芽吹!」
芽吹が、針を抜いた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、迷いが見えた。
次の瞬間。
「《リグロウ・スレッド》…!!」
冷たい声。
糸が走る。
虚影を、子どもから引き剥がす。
完璧だった。
だが――遅い。
子どもは、倒れた。
命はある。
けれど、何かが欠けている。
記憶の一部。
感情の接続。
縫い損ねた痕。
…後遺症が残った。
透は、膝をついた。
「……俺なら、間に合った」
それは、芽吹に対してか。
それとも、自分に対しての言葉だったのだろうか。
芽吹は、答えない。
答えられない。
ただ、俯いて震えていた。