時を縫う英雄譚
第六話
雨が降っていた。
細く、音も立てず、糸のように街を濡らす雨。
透は傘を差さずに歩いていた。
濡れても構わない。
何かを感じなくなる方が、ずっと怖い。
頬が冷たく感じるたび、現実に縫われている気がした。
校門の前で、芽吹が待っていた。
もちろん公安の制服ではない。
だが、立ち姿がイインチョーとはどこか違っていた。
「今日は直帰しよっか」
「監督の命令?」
「……わたしの判断だよー」
芽吹は、言葉を選んだ。
それだけで、答えは十分だった。
暁ヶ浜・第三区画。
再開発予定地。
人の流れが途切れた、縫い忘れられた場所。
警戒線の奥で、空気が歪んでいる。
「あれ、虚影?」
「いや、発生前兆だね」
芽吹は端末を操作しながら言う。
「まだ“事象”じゃない。
だから、公安は、経過観察してる」
透は、その言葉を噛み砕いた。
「……放置?」
「正確には、
まだっていう選択ね」
その瞬間だった。
奥の路地から、子どもの泣き声がした。
高くて、細くて、まだ小学生低学年独特の声。
透の視界が、反転する。
路地の壁。
アスファルト。
空気の層。
――縫い目だらけだ。
未成熟な虚影。
だが、近い。
「イインチョー、あれ……」
「まって、確認してる」
芽吹は、既に把握していた。
「あれは…
細く、音も立てず、糸のように街を濡らす雨。
透は傘を差さずに歩いていた。
濡れても構わない。
何かを感じなくなる方が、ずっと怖い。
頬が冷たく感じるたび、現実に縫われている気がした。
校門の前で、芽吹が待っていた。
もちろん公安の制服ではない。
だが、立ち姿がイインチョーとはどこか違っていた。
「今日は直帰しよっか」
「監督の命令?」
「……わたしの判断だよー」
芽吹は、言葉を選んだ。
それだけで、答えは十分だった。
暁ヶ浜・第三区画。
再開発予定地。
人の流れが途切れた、縫い忘れられた場所。
警戒線の奥で、空気が歪んでいる。
「あれ、虚影?」
「いや、発生前兆だね」
芽吹は端末を操作しながら言う。
「まだ“事象”じゃない。
だから、公安は、経過観察してる」
透は、その言葉を噛み砕いた。
「……放置?」
「正確には、
まだっていう選択ね」
その瞬間だった。
奥の路地から、子どもの泣き声がした。
高くて、細くて、まだ小学生低学年独特の声。
透の視界が、反転する。
路地の壁。
アスファルト。
空気の層。
――縫い目だらけだ。
未成熟な虚影。
だが、近い。
「イインチョー、あれ……」
「まって、確認してる」
芽吹は、既に把握していた。
「あれは…