時を縫う英雄譚
第十話
それは、放課後の帰り道だった。
駅前のスクランブル交差点。
人波が途切れ、信号が赤に変わる。
――次の瞬間。
音が、消えた。
車のエンジン音も、雑踏も、風の音すらない。
世界が一枚の布になり、引き延ばされる感覚。
「……来る」
透が呟いた。
影が、地面から滲み出す。
黒く、歪で、形を定めない“虚影”。
だが――
「……待って」
芽吹の声が、背後からして硬直する。
虚影の輪郭の中に、少女の姿が混ざっていた。
長い髪。
十歳ほどの小さな背中。
透の喉が、ゴクリと音を立てる。
「……灯」
影が、笑った。
いや、笑ったように見えた。
『おにぃちゃん』
声は、複数重なっていた。
灯の声。
違う誰かの声。
そして――感情のない反響音。
「見るな!!」
フォールが叫ぶ。
次の瞬間、虚影が爆発的に増殖した。
影が影を縫い、交差点全体を覆い尽くす。
駅前のスクランブル交差点。
人波が途切れ、信号が赤に変わる。
――次の瞬間。
音が、消えた。
車のエンジン音も、雑踏も、風の音すらない。
世界が一枚の布になり、引き延ばされる感覚。
「……来る」
透が呟いた。
影が、地面から滲み出す。
黒く、歪で、形を定めない“虚影”。
だが――
「……待って」
芽吹の声が、背後からして硬直する。
虚影の輪郭の中に、少女の姿が混ざっていた。
長い髪。
十歳ほどの小さな背中。
透の喉が、ゴクリと音を立てる。
「……灯」
影が、笑った。
いや、笑ったように見えた。
『おにぃちゃん』
声は、複数重なっていた。
灯の声。
違う誰かの声。
そして――感情のない反響音。
「見るな!!」
フォールが叫ぶ。
次の瞬間、虚影が爆発的に増殖した。
影が影を縫い、交差点全体を覆い尽くす。