13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。
 個室に医師と二人きりにされ、気まずい空気が流れる……と思っているのは、きっと美澪だけだろう。

「過労ですね」
 見た目からのイメージよりも低い声で海堂は端的に言った。
 涼しいというよりも冷酷といった方が良さそうだ。バカな女が嫌いそう。大声で喋る女も嫌いそう。
 というか、人間そのものが嫌いそうだと美澪は思った。
(まあ、人間が嫌いなら医師になんてなってないだろうけど)
 それにしても、医師ならもっと優しく接して欲しいものだ。
 
「そう……でしょうね」
 美澪も端的に返事をした。視線を合わさないよう、窓際とは反対側に目を逸らす。
 過労なんて百も承知だ。毎日毎日仕事しかしていない。今の会社に入ってから、まともな食事もとれなくなった。眠くて眠くて仕方ないのに、疲れすぎて不眠症に陥っている。
 いっそ倒れられたら休めるのか……なんて考える時もあった。それが現実になったということだ。
 
 目が覚めてしまえば怒り狂った課長を想像し、胃がキリキリと痛み出す。
 明日渡す資料がまだ仕上がっていないのも思い出してしまった。
(嫌だ。時間が止まれば良いのに)
 現実逃避をしても仕方がないのは分かっている。一刻も早く会社に戻って続きをしなければいけないが、もう施錠されているだろう。
 ならば朝イチで向かうしかない。
 
「あの、私はいつ帰れますか? 直ぐに仕事に戻らないといけないんです。明日の会議で使う資料がまだ出来てなくて。急がないと」
「明日……?」
「ひっ」
 蔑む視線で見下され、小さく悲鳴を上げながら肩を竦めた。怖すぎる、この先生……。

 海堂は大袈裟なため息を零すと、「安心しろ」と言った。
「君はここに運ばれてから、丸三日眠り続けていた。その会議は既に終わっている」
「えっ!?」
 三日……。三日も眠っていたのか……。信じられない。一晩まともに眠れた試しもないのに。
 
 美澪は我が身を疑った。
 点滴のお陰なのだろうか。それとも眠ったつもりで失神しでもしていたか。それだけ寝ても、まだまだ体は怠重い。
 
 いや、それどころではない。課長に謝罪の一報を入れないと自分の命が危ぶまれる。
「と、とりあえず点滴はもう外してもらえませんか? もう、回復したので帰ります」
「駄目に決まっているだろう」
 海堂は蔑むを通り越して呆れている。
「仕事と自分の命と、どっちが大切なんだ? 会社なんて、君の代わりはいくらでもいる」
 淡々とした口調で正論を突き付ける。
 
 だから寝ていろとでも言うのか。所詮、この人には庶民の気持ちなんて分かりっこない。
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