酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 私が食堂に飛び込むと、騎士たちがビクッとしてこちらを見た。

「こんな冷たいパンじゃ、体も冷えちゃいます。全部下げて!」

「誰だ貴様は!」

 ヒャルマール団長が警戒して剣の柄に手をかける。

「新しい辺境伯夫人……のアマレッタです。詳しい自己紹介は後! 今は温かいものを食べないと!」

 私は有無を言わさず、干し肉の皿を奪い取った。
 そのまま厨房へとダッシュする。

 厨房の大鍋に火を入れる。
 食材は限られている。
 大量の根菜(カブ、人参、玉ねぎ)と、カチコチの塩漬け豚肉。

 普通に煮たら、この肉はゴムみたいに硬いまま。

 けれど、私には秘策がある。

「出番よ、私の可愛いカビたち!」

 私は懐から小瓶を取り出した。
 中に入っているのは、米と塩を発酵させた調味料――「塩麹」。
 こっそり培養しておいた秘蔵っ子だ。

 大鍋に油を敷き、ぶつ切りにした塩漬け肉を放り込む。

 ジュワアァァァ!

 表面を焼き付けたら、そこにたっぷりの白ワインを惜しみなく注ぐ。
 安酒でいい。酸味が肉の臭みを消してくれる。

 アルコールを飛ばしたら、水を加え、根菜をドサッ。
 そして、魔法の調味料「塩麹」を投入。

「美味しくなーれ、柔らかくなーれ」

 酵素の力よ、タンパク質を分解せよ。
 仕上げにローリエと黒胡椒、そして聖女の魔力をほんの一摘み。

 コトコト、コトコト。

 鍋の中では、発酵と熱の化学反応が起きていた。

 硬かった肉の繊維がほぐれ、野菜の甘味がスープに溶け出す。

 やがて、厨房から食堂へと、暴力的なまでに「美味しそうな香り」が流れ出した。

 ハーブの清涼感、炒めた肉の香ばしさ、そして野菜の優しい甘い香り。
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