酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
 さて、夜の開店に向けて仕込みの時間だ。

 城の使用人たちは、朝から大騒ぎだった。
「閣下が朝食を完食された!」「顔色が生きている人間のそれに戻った!」と、厨房はお祭り騒ぎだ。
 料理長に至っては、嬉し泣きしながら玉ねぎを刻んでいた。

 いや、単に玉ねぎの汁が目に入っただけかな……。

 そんな騒ぎを他所に、私は厨房の片隅を陣取っていた。
 今夜の肴は、東方酒にもワインにも合う最強のアテ。

 ――クリームチーズの味噌漬け。

 本来なら、味噌床に漬け込んで数日から一週間は寝かせなければならない。
 けれど、私には強い味方がいる。

「いでよ、酵母菌たち。時を超え、熟成のその先へ!」

 私はタッパーに入れたチーズに手をかざし、聖女の魔力を注入する。
 本来は傷を癒やすための力を、発酵促進に全振りする。

 ぼんやりとした金色の光が、タッパーを包み込む。
 普通なら一週間かかる熟成が、わずか数分で完了するチート技。

 パカッ。

 蓋を開けると、ふわりと芳醇な香りが漂った。
 味噌の香ばしさと、チーズの乳臭さが混じり合った、独特の発酵臭。
 真っ白だったチーズは、美しい琥珀色に染まっている。

「……完璧」

 つまみ食いしたい衝動をぐっと堪える。
 これは、夜のお楽しみだ。

 それに合わせるのは、キリッと冷やした辛口の白ワイン。
 この城の地下貯蔵庫から許可を得て拝借してある。

 夜が待ち遠しい。
 私は鼻歌まじりに、チーズを切り分けた。
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