色褪せて、着色して。Ⅵ~黒薔薇編~

エピローグ

 ナオミが怒るのは当たり前だと思う。
 いいように、利用されたんだから。

 あの日。
 カレン様とローズ様に会った日のこと。
「調律師で何か企んでいる奴がいる」
 とローズ様に言われた。
 ああ、また利用されるのか。
 囮よりかはましだと思ってたけど。
 まさか、拳銃か…。
 頭に突きつけられるとは思ってもいなかった。

 ピアニストと調律師に悪い人なんていない。
 何で、今日に至るまでそんなふうに考えて生きて来たのか。

 ローズ様には申し訳ないけど。
 前王妃が、悪いんだ。
 全部全部、王妃が悪いんだ~。

「寝込まれたと聴きましたが、随分と顔色もよろしいようで…」
 ベールで顔色なんて見えないはずなのに。
 エース様が笑顔で言ってのけた。

 約3ヵ月に及ぶスペンサー家での生活が終わろうとしていた。
 馬車の前で、最後の挨拶をしなきゃと思いながらも。
 最後…と思うとやっぱり悲しくて。
 考えないようにしよう。
「彼らは何か身に付いたと思いますか?」
 近くで、トペニと喋っているハガネとナオミを見て。
 こっそりとエース様に質問する。
 特に何かをしたわけではない。
 特別な訓練をするわけでもなく。
 彼らは私の家に通って。
 護衛の仕事をした。

 エース様は、ほっほほと笑うと。
「おおいに成長しましたよ。彼らは、良き騎士になるでしょう」
「…ならいいんですけど」

 トムじいの事件後。
 ずーとナオミは不機嫌だった。
 トペニとスズメがうまくなだめたようだけど。
「スペンサー侯爵と夫人もよろしくとのことです」
「ああ…はい」
 来た時はスペンサー侯爵と夫人に挨拶したけど。
 帰る今となって、2人に会うことは出来なかった。
 忙しいから…ってことで挨拶はなしになったけど。
「合わす顔がないでしょうなあ」とエース様が言ったのも納得できる。
 まさか、自分が推薦した調律師が犯罪を犯すとは思いもしなかったのだろう。
 下手をすれば、スペンサー侯爵も処罰の対象になるところを。
 蘭様の養父ということで。
 そこは、もうふにゃふにゃとして終わった。

「おい、あるじ。国に帰ったら。俺のような素晴らしい騎士がいたということを国民に知らしめろよ!」
 相変わらずのビッグマウスに。
 私は「あはは」と笑うしか出来なかった。

「ハガネ。ナオミ。お世話になりました」

 馬車に乗り込むと。
「じゃあな。あるじ。俺たち、訓練あるからな」
 と言って。
 そそくさと歩いていってしまう。
「え、そこは最後まで見送らないの?」
 ふふふふと前に座っていたバニラが笑った。
「ハガネ様はエアー様に似ているとことがありますわね」
「うっそだあ!」
 と言いながらも。
 哀愁漂うハガネの背中を見て。
 ふふと笑ってしまう。

「大丈夫。さみしいと思っても、貴方たちとは再会する」

 一年後、ハガネとナオミは国家騎士となって。
 また再会するというのは、また別の話だ。
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