『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』

【エピローグ2】​永久保存(ストレージ)の約束:君のとなりで、メンテナンスを

1. 嵐の決勝戦:論理(ロジック)を超えた先に
​ロボットコンテスト、決勝戦。
会場は熱狂に包まれていた。私たちのチーム「カスタム・ハイ」は、順調に勝ち進み、ついに一条くん率いるチームと対峙していた。
​「如月さん。これが僕の、完璧な『直感(ギフト)』です」
一条くんのロボットは、まるで生き物のように滑らかに動き、私たちのマシンを圧倒していく。
​「……くっ、モーターの同調がズレてる!? どこ!? どこが原因なの!?」
天才の力を失った私は、モニターの数値を目で追うことしかできない。焦りで指が震える。
​『――カンナっち、落ち着いて! 髪、結び直してあげるから!』
インカムから七海の声が響く。
『雷太が外で応援の花火、準備してるわよ! シオンもバックアップ回線を死守してる!』
​「みんな……」
​『……カンナさん。目を閉じて』
隣に座る湊くんの声が、優しく脳内にインストールされる。
『数値を見るな。……君がこれまで、あの子と過ごしてきた時間を思い出して。……君の指先が覚えている「感触」を信じるんだ』
​私は、深く息を吸い、目を閉じた。
一年前、魔法を失ってから、私が毎日毎日、何千回、何万回と触れてきたレンチの重み。ボルトを締める時の、わずかな抵抗感。
天才だった頃には気づかなかった、機械が放つ「微かな体温」。
​(……分かった。ここだ。……右後方のギアの、噛み合わせがコンマ三ミリ、甘い!)
​私は目を開け、湊くんに合図を送った。
「湊くん、今!……『強制同期(シンクロ)』プログラム、起動!」
​「――了解(アクセプト)!!」
​湊くんがキーを叩く。
私たちのマシンが、一瞬の静止の後、一条くんの完璧な動きの「裏」をかき、鮮やかな反転を見せた。
計算でも、直感でもない。
泥臭い努力と、お互いへの絶対的な信頼が産んだ、世界で一番「型破り」な機動。
​「……っ!? なぜだ、僕の計算にはなかった動きだ!」
一条くんの叫びをかき消すように、会場に終了のホイッスルが鳴り響いた。
​2. 優勝のあとの、二人だけの「アワード」
​表彰式の喧騒を抜け出し、私たちは夕暮れの屋上へと逃げ出した。
遠くで雷太が打ち上げた、ギアの形をした花火が、夜空を七色に染めている。
​「……やったね、湊くん。私たち、勝ったよ」
「ああ。……君の努力が、天才を超えた瞬間だった。最高に美しかったよ、カンナさん」
​湊くんが、私の腰を抱き寄せ、夕風にたなびく私の髪を愛おしそうに撫でる。
「……一条くん、悔しがってたね。『如月さんのバグを、僕が解析したい』なんて言ってたけど……。……教えないよ。君のバグは、僕だけの専属(プライベート)コードなんだから」
​「……ふふ。凑くん、やっぱり嫉妬深い」
​「当たり前だよ。……君が『普通』になればなるほど、他の男たちが君の魅力に気づき始める。……僕は、気が気じゃないんだ」
​湊くんが、私の薬指の指輪を一度外し、再び、より深く嵌め直した。
「……カンナさん。卒業したら、この指輪、本物の『結婚指輪』にアップデートしてもいいかな?」
​「……えっ!? まだ、気が早すぎるよ!」
「予約(エンゲージ)は、早ければ早いほどいい。……君の人生、一生分、僕に買い取らせて」
​湊くんの視線が、熱を帯びて私の唇に降りてくる。
私は、彼の首に腕を回し、自分からその距離をゼロにした。
​3. 永遠のバージョン 1.0
​夜が更け、私たちは二人で並んで歩いていた。
たどり着いたのは、あの「始まりの自販機」。
​「……ねえ、湊くん。私たち、十年後も、二十年後も、こうしてここでコンポタ飲んでるのかな」
​「……いいや」
湊くんが、私の手を引き、自分のポケットの中に一緒に入れた。
「十年後は、もっと最新型の自販機を僕が作って、君がそれを魔改造してるはずだよ。……僕たちの恋は、いつまでも『開発中(ベータ版)』だからね」
​「……ふふ。それ、一生完成しないってこと?」
​「そうだよ。……完成しちゃったら、面白くない。……毎日、新しい君をインストールして、毎日、新しい『好き』をアップデートしていく。……それが、僕たちの『永久保存(ストレージ)』の約束だ」
​湊くんが、ポケットの中で私の指を絡める。
天才じゃなくなったあの日、私は魔法が解けたと思っていた。
でも、違ったんだ。
湊くんという最高のパートナーと出会い、二人で一から作り上げる毎日。
それこそが、どんな技術も追いつけない、世界で一番の「奇跡」だった。
​「……湊くん。大好き。……次のアップデートも、期待しててね」
​「……ああ。楽しみにしてるよ、僕のシンデレラ」
​夜空に響く、二人の笑い声。
自販機の灯りが、二人の影を一つに重ねる。
恋の回路図は、まだ描きかけ。
でも、そこには世界で一番幸せな未来が、高出力で出力されていた。
​爆走メカニカル・シンデレラ:After Story
――恋の行方は、永久メンテナンス中。

【完結】

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