『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』

第9話∶鋼鉄の鼓動、歯車の迷宮で二人きり

1. 動き出した「巨大な絶望」
「……っ、始まったわ。校舎そのものが、巨大な『感情吸収装置』に作り替えられていく……!」
地響きとともに、私たちが通う学園がその姿を変えていく。時計塔は巨大なレンズへと変形し、校庭の地面からは鈍く光る銀色の配線が血管のようにのたうち回っている。
理事長が起動させた最終プログラム『零号機』。それは生徒たちの「ときめき」や「情熱」を電子信号として吸い上げ、世界を管理するための巨大なエネルギー源にするという、最悪のシステムだった。
「カンナさん、しっかり掴まって!」
湊くんが私の腰を抱き寄せ、崩れ落ちる床から間一髪で飛び退く。
周囲はもう、見慣れた校舎じゃない。剥き出しの巨大な歯車が噛み合い、蒸気が噴き出す、鋼鉄の迷宮。
『カンナ、湊! 聞こえるか!?』
インカムからシオンの怒鳴り声が響く。
『校舎の外壁が電磁バリアで覆われた! 外部からの侵入は不可能だ。中枢の「コア」を叩くしかない。場所は……旧校舎の地下最深部、かつての実験室のさらに下だ!』
「了解よ、シオン! ――湊くん、行くわよ。私たちの思い出の場所を、こんな冷たい機械の塊にさせておけない!」
私はバッグから、第2話で作った『高周波レンチ・改』を抜き放った。
「最高のオーバーホール、ここからが本番よ!」
2. 暗闇の密室、重なり合う体温
中枢へと向かう最短ルートは、今や巨大なギアが回転する狭いダクトの中。
「……狭いわね。湊くん、大丈夫?」
「君こそ。……あ、待って。そこ、配線が剥き出しだ」
狭い通路で、湊くんと密着せざるを得ない状況。背中越しに感じる彼の力強い鼓動。第6話の林間学校での「圏外」の夜よりも、今の距離はもっと近い。
湊くんの吐息が私の耳元をかすめるたびに、私の『恋のバグ発見器』――今はもう壊れて光らないはずの腕時計が、私の肌を通じて「熱」を伝えてくる。
「ねえ、カンナさん。……君はさ、怖くないの?」
湊くんがふと、低い声で囁いた。
「こんな、学園中を敵に回して……僕みたいな、バグだらけの家系の人間と一緒にいて」
私は動きを止め、暗闇の中で湊くんの瞳をじっと見つめた。
「……バカね。機械にバグがあるのは、それが『動こうとしている証拠』よ。完璧なだけの機械なんて、ただの置物だもの。……私は、バグごとあなたを愛してる。それが私の『仕様(スタイル)』なの!」
「……っ。……はは、やっぱり君には敵わないな」
湊くんが、私の手をギュッと握り締める。その指先から伝わってくるのは、不安をかき消すような、確かな「愛」の電流だった。
3. カスタム部、全開のバックアップ
ダクトを抜けた先、中枢の「コア」を守る防衛システムが牙を剥く。
無数のレーザーが走り、迎撃用の小型ドローンが雲のように押し寄せてくる。
「ここから先は、私一人じゃ……」
私が一瞬、足を止めたその時。
『――遅いっすよ、カンナっち!』
轟音とともに、前方の壁が派手に吹き飛んだ。
爆煙の中から現れたのは、特製バズーカを担いだ雷太だ!
「雷太! それに、みんな!」
「お待たせ、カンナっち! 最高のステージ衣装、持ってきたわよ!」
七海が、第4話のパワードドレスをさらに改良した、戦闘用防護服(バトル・シンデレラ・スーツ)を掲げて笑う。
『外周の制御は僕が奪った。……カンナ、残り時間はあと三分だ。それまでにコアへ「愛のウイルス」を直接流し込め』
シオンがジャックしたスピーカーから、勝利のBGMが鳴り響く。
「みんな……! ありがとう!」
七海が差し出したスーツを纏う。第8話で奪い返した愛用のレンチを、スーツのエネルギー伝導路に直結する。
「湊くん、行こう! 私たちの……『恋の最終回』を書き換えるために!」
4. 伏線回収:銀色の五ミリが繋ぐ未来
ついに辿り着いた、最深部のコア。
そこには、巨大な水晶体の中に閉じ込められた、学園の全ての記憶(データ)が渦巻いていた。
理事長が叫ぶ。「無駄だ! このコアには、人間の感情など通用せぬ!」
「いいえ、通用するわ。……湊くん、例のスマホを!」
私は湊くんから、あの『空飛ぶスマホ』を受け取った。
第1話からの全ての思い出――失敗した改造、照れくさかった会話、暗闇で繋いだ手の感触。
そのデータを、私はあえて「整理せず」に、混沌としたバグのままコアへ叩き込んだ。
「エリカさん……見てて。あなたの『完璧なロジック』じゃ届かない場所に、私たちが辿り着くところを!」
私はコアの表面にある、あの**『五ミリの隙間』**――湊くんが教えてくれた、この学園の設計上の弱点に、スマホを直結した。
「――届け、私の全出力(フルパワー)の『好き』!!」
カチリ、と音がした。
次の瞬間、コアが眩い虹色の光に包まれる。
第8話でドローンに仕込んだ「祝福の花火」のプログラムが、学園のシステム全体に上書きされていく。
無機質だった鋼鉄の校舎が、生徒たちの思い出の色に染まっていく。
冷たい蒸気は、甘いお菓子の匂いに変わり、不気味な警告音は、いつか二人で聴いたあのチャイムのメロディに変わった。
「……バカな。システムが……『幸福感』で満たされていく……!?」
理事長の絶叫が、光の中に消えていく。
5. 魔法が解ける、その前に
光が収まった後。
学園は元の姿に戻っていた。……けれど、少しだけ、前よりも温かい空気が流れている気がした。
ボロボロになったパワードスーツを脱ぎ捨てた私は、屋上のフェンスに寄りかかり、朝焼けを見つめていた。
「……終わった、のかな」
「ああ。全部、君がデバッグしてくれたんだよ。カンナさん」
隣に立つ湊くんの顔も、すすだらけでボロボロ。でも、その笑顔は世界で一番輝いていた。
「ねえ、湊くん。……魔法が解けたら、私、ただの『油まみれのメカオタク』に戻っちゃうけど……いいの?」
湊くんは、私の問いかけに答える代わりに、私の肩を引き寄せ、耳元で甘く囁いた。
「……いいわけないだろ。君はこれから、僕の人生っていう巨大なプロジェクトの、一生モノの『メインエンジニア』なんだから」
そう言うと、彼は私の指先に、ギアの形をした、本物のダイヤが埋め込まれた指輪をそっと嵌めた。
「――予約(エンゲージ)、完了。……これ、僕からの『最強のバグ』だよ。一生、直させないからね」
「……っ!!」
私の心臓が、本日最大級のオーバーフローを記録する。
朝陽に照らされた学園で、私たちは、誰にも内緒の「最終チューニング」――。
重なる唇から、新しい恋のメロディがインストールされていく。
爆走メカニカル・シンデレラ、これにて……『ハッピーエンド・インストール』完了!

つづく
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