丘の上の小さな 美容室
懸想と嫉妬
翌朝目が覚めたら、素肌にネックレスが光っていてがばりと身を起こしてその宝石に触れた。
深紅に光るそれは小さく控えめで、悪目立ちせずに鎖骨の下で存在を主張していた。
どこのジュエリー店のものかわからないが、お高い気がする。だらだらと汗をかくと、ゆっくり瞼を開けた美織があたしの様子を見て眉根を寄せた。起き上がり、ネックレスに触れた。
「約束のやつです。ちゃんと俺がひとりで選びました。気に入らないですか?」
あたしは首を横に振る。
気に入らないどころか、とても好きなデザインだ。シンプルで上品。普段の服にも合わせやすい。ピアスとお揃いの色なのも、とてもいい。
ただ、値段を聞くのが恐ろしい。
いや、値段を聞くなんて野暮か。
素直に笑って喜ぶのが、いい女の条件な気がして、無理やり笑ってみせたが失敗した。
頬が引きつり、美織はその頬を摘みむっとした。
「気に入らないのならそう言えばいい。上手く笑えてないですよ」
あたしは抓る美織の手を取り、少し考えて指先にキスをして上目遣いをした。
美織が、ぐっと喉を鳴らす。
「ずるく、ないですか」
「何がずるいの」
「なんでもありません」
「そう。あのね、気に入ってるわ。ちゃんと好き。このデザインも、美織が選んでくれたことも嬉しいわ。でも、あたしは可愛くないから……値段が、気になるのよ。お高そうだなーって思ったら気が引けちゃう」
「高くはないですよ」
「ピアスよりは?」
「はい。気に入ってるんですよね?」
「気に入ってる」
「良かった」
ほっと笑う美織の顔に、あたしは弱い。
ああ、もう、美織がいいならもういいや。
たかがセフレにこんな高価なプレゼントして、いざ本命が現れたらこれ以上のもの用意できるのかしら。
あたしは美織の鼻を摘む。
「いずれ後悔するわよ」
「なぜ?しませんよ」
「ふふ。そうだといいけど」
ずっとこのまま、なんてことはないでしょう。
あたしも美織も、いずれ恋人ができて結婚すればセフレなんて関係は続けられない。
あわよくば、あたしは美織とそうなりたいけど、美織はきっと、そうじゃない。もしかしたら、撫子さんを選ぶかもしれないし、先のことはわからない。
「今だけでも、幸せ」
ネックレスを撫でながら思わず呟いた言葉は、美織のキスで塞がれた。
「今も、この先も。ずっと幸せにしますよ」
この言葉が本心ならいいのに。
あたしの目が潤むと、美織は慰めるように優しいキスを何度もした。