丘の上の小さな 美容室
 美織はあたしを恋人として、あたしは美織をセフレだと思っていたことが発覚したあの日の夜。
 美織はとぼとぼと帰っていった。
 あたしはしばらく玄関から動けずに呆然と立ちつくしていたが、混乱と戸惑いから解放されようと、まずシャワーを浴びて、だるい体をベッドに投げ出した。
 シーツ洗濯したのいつだっけ。そろそろ代えないと。
 スマホを手に取り、迷いながらも恋人とセフレの違い、と検索した。

 告白したかどうか。
 体の関係のみか。
 デートしたかどうか。
 将来の話をしたことがあるか。

 あたしはがしがしと頭を掻いた。

「好き、なんて、言われてないわよ」

 でも、大事にされていた。
 深青だけだから、と何回も言われた。
 好きという言葉よりも、一途さは伝わってきていたし、その情熱も、あたし以外に向けられている気配はなかった。
 最初は体の関係からだったけれど、美織からデートがしたい、と言ってきたし、将来の話なんかしなかったけれどそれはこれからするところだったのかもしれない。
 あたしは、この関係をどうするのか、そろそろ決めたいと思っていた頃合いだった。距離を置こうとして、でも好きで、結局会いに行ってしまった。
 
 悩んで悩んだ末、あたしは決めた。
 美織をモノにする、と。
  
 あたしはガラスケースから出されたペアリングを睨みつけ「これください」と低い声で唸るように決意した。
 撫子さんはにっこり笑って「サイズの確認は宜しいですか?」と聞かれて固まった。
 美織のサイズなんか知らないわよ。
 あたしが沈黙してしまうと、撫子さんはほくそ笑み「美織のサイズは把握してるから。まかせて。用意してくる」とあたしのサイズだけ確認して行ってしまった。
 撫子さんが美織のサイズを知っていることにジェラシーを感じたが、それよりも感謝の念のほうが強くて複雑な思いにもやもやした。
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