丘の上の小さな 美容室
 あたしは美織の頬を両手で包み込み、頬と唇にキスをする。
「あたしと結婚してください。毎日あなたが欲しくてたまらないの。あなたがあたしの恋人でとても幸せだけど、まだ足りないわ。結婚してあなたをあたしだけの男にしたい。あたしの旦那さんになってほしい。結婚したら美織がくれる愛よりもっと重い愛をあなたにあげる。約束するわ」
 あたしは美織の左手を手に取りキスをする。薬指の指輪がキラリと光る。
「エンゲージリングも選ばせて。順番が逆になっちゃったけど、許してくれるかしら。返事は勿論イエスよね?」
 じっと美織の目を見つめると、美織はがばりとあたしを抱きしめぐりぐりと首筋に頭を擦り付けてきた。
「深青」
「な、なによ。あたしからのプロポーズ嬉しくない?まさか断る気?」
「深青は本当に可愛い」
「そーゆーのいいから。返事は?」
「勿論、イエスです。このまま市役所行きますか?」
「え。そう?あたしはいいけど。でも結婚待ってほしいって言ってたじゃない。もういいの?」
「もういいです」
「なんだったのよ」
「つまらないプライドですよ。俺から、深青にプロポーズもエンゲージリングも結婚指輪もプレゼントしたかった。それだけです。男として情けないなって落ち込んでただけですよ」
「あたしからのプロポーズが気に入らなかったの?」
「まさか。飛び上がるくらい嬉しかったですよ」
「じゃあいいじゃない。素直に受けいれなさいよ」
「そうですね。でも、昨日の深青は特段可愛かったので……それが見れて得した気分です」
「本当にあたしは何をしでかしたのよ……」
「珈琲とクッキーを用意します。そのあと市役所に行きましょう。午後から仕事ですよね?そろそろ用意しないと間に合わない。急ぎましょう」
 きりっとしてあたしを抱き上げ洗面所に運び、美織はキッチンで珈琲を淹れ始めた。
 結婚する気になってくれたのは嬉しいけれど、昨日の自分の行動を思い出せずにもやもやしながらとりあえず顔を洗おうと蛇口を捻った。 
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