丘の上の小さな 美容室
 美織が、街中で知らない女性と歩いていた。
 その時のことを思い出す。
 隣の女はどこの誰。仕事関係?
 あたしとの映画デートよりも大事な用事だったわけ。
 浮気、じゃないわよね。美織に限ってそんなこと。
 でも。一緒に住む話を曖昧にしてしまったときから、休みの日でも予定があると言われるようになった。たまたまだろうか。すれ違いが、多くなってきている気がして心許なかった。
 あたしのこと、少しずつ飽きてきてしまってのかしら。それとも仕事を優先しがちでやっぱり嫌になった?
 相変わらず家事が苦手でほとんど美織がしてくれてるけど、それが重荷になってたりとか。
 心当たりが多すぎる。
「美織を、疑うなんて」
 ぽろ、と言葉が溢れて、千紗はそれを拾い上げ眉根を寄せた。
「なに。女と歩いてた?また撫子さん?」
「撫子さんじゃなかった。撫子さん以外にも仲のいい女の人っているのかしら」
「さあ。聞いてみたら」
「……き、聞けない」
「なぜ」
「浮気かも」
「それはない」
「そうかな」
「そうだね」
 言い切った千紗はビールを一気に飲み干した。
「美織さんが浮気なんて天地がひっくり返るよ。まずありえない」
「すごい自信」
「見てりゃわかる。深青が大好きです!ってハート飛びまくってる」
「あ、そ、そう」
「正直毎回見るたびドン引きしてる」
「それは、申し訳ない」
「だからそんなことで凹むなよ。同居も別居も納得いくまで話し合いな。ヤキモチ妬いちゃうから無理って言えば済むことでしょ」
 千紗みたいにずばっとあっさりさっぱり出来たらいい。
 美織に会うまでは、あたしも千紗みたいにさっぱりできていたと思うのに。
 やっぱり恋は、人を狂わせ盲目にするものだ。
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