丘の上の小さな 美容室

追跡と告白


「浮気ね。美織に限ってそれはないかなー」
「じゃあついてこないで」

❐❐❐
 
 美織との休日が被った。
 あたしは再度映画に誘った。
 美織は歯切れ悪く断った。
 決定的だと確信し、後をつけることにした。
 あたしの部屋に泊まり、そのまま予定に向かう美織から行ってきます、とキスをされて玄関で手を振り笑顔で見送った。
 すぐにあたしは白のニット帽を被り、普段着ないブルゾンにふわふわのマフラーをして顔下半分を隠し、よれよれのジーンズと長靴を履いて外に出た。
 いつもとは違う格好をしているから、見つかりにくいはず。
 雪道なので足を取られそうになりながらもちょっと走って追いつくと、美織がくるりと振り返ったので慌ててそばの木の幹に隠れて様子を伺う。
 美織は美容室近くの喫茶店に、入っていった。
 あたしはもう少しそばに、と喫茶店に近寄ろうとしたが、ぽんぽんっと肩を叩かれ振り向いた。
 金髪に紫のカラコンの男、恵がいた。
「色気ない格好してんね。なにしてんの?」
「今取り込み中なので話しかけないで」
「気になるなー。あの喫茶店になにかあるの?」
「うるさいわね、ちょっと黙って……あっ!」
 あたしは恵を置いてひとり建物の影に隠れた。
 恵がついてきてあたしの後ろから覗き込む。
 黒髪ロングヘアの美人。
 白いコートに小さめのハンドバッグを持って、その人は喫茶店に入っていった。
 待ち合わせよね。
 中に入りたいけど……でもバレる確率が高いし、二人が出てくるのを待とう。
 厚着してきて良かった。
「中に入らないの?」
「入らない」
「……」
「……」
「いつまでいるのよ。帰りなさいよ」
「寒くない?」
「寒いわよ。当たり前じゃない」
「もー。ここにいてよー」
 恵はため息を吐きながら何処かに消え、そしてまたすぐに戻ってきて目の前に缶コーヒーを差し出してきた。
「差し入れです、刑事」
「そーゆー遊びじゃないんだけど。……ありがと」
 プルタブを開け、こくんと喉を潤した。温かさが、身に染みる。同じものを飲みながら、恵が喫茶店に目をやる。
「どうせ美織でしょ。なに。喧嘩?」
「喧嘩じゃないわ。……疑念よ」
「疑念?」
「あっ、出てきた!」
 缶コーヒーを飲み干し、空き缶になったそれを恵に押しつけた。
 美織と、黒髪ロングヘアの美人。並んで歩いていく。
「美織の隣の子。だれ?」
「知らない。それを調べにいくのよ。う、浮気、かも」
「浮気ね。美織に限ってそれはないかなー」
「じゃあついてこないで」
「あ、待って。これ捨ててくるからさ」
 恵はゴミ箱に向かい、あたしは美織のあとを追った。
 遠くから美織を見つめる。
 黒のブルゾンに、くたびれたジーンズ。
 服に隠されていてもその逞しい体つきは容易に想像できる。
 並ぶ二人を知らない道行く人は、きっと二人を恋人同士だと思うだろう。
 美男美女。お似合いだ。
「深青ちゃんも美人だよ」
 心を読んだかのように、いつの間にか追いついた恵が横に並んでそう言った。
 寒さのせいか耳が赤い。
「お気遣い、どうも」
「本当だってー。信じてない?」
「あたしは綺麗よ。美織がいつも言ってくれてる。でもあたしくらいの美人はそのへんにごろごろいるわ。わかってる」
「でも美織は迷わず深青ちゃんを選んだ。でしょ」
「そうだけど。心変わりもあるでしょ」
「ないね。ない」
「千紗と同じ事言うわね」
「見てりゃわかるよ」
「あ、そう」
「で、この不毛な追跡はいつまでやるの?」
「あ」
「ん?」
 美織と黒髪ロングヘアの美人が立ち止まり、マンションを指差し中に入っていった。
 あたしと恵はその後を追い、マンションを見上げる。
「……あの人の、部屋に行ったのかしら」
「はは。まさかー」
「だってどう見てもマンションよ。新築よね。いいところに住んでるわね」
 これは、もう、確定だ。
 
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