冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

タワーマンションに戻ると、湊はまだ帰っていなかった。

私は自室に駆け込み、引き出しから契約書の控えを取り出した。

あの日、サインをした書類。

『期間:半年』

『契約終了後、双方合意の上で離婚する』

湊の署名と私の署名。すべてが、そこにある。

「湊……」

契約書を、胸に抱きしめる。

あなたは、どう思ってるの?

約束の期間が終わっても、私と一緒にいたいと思ってる?

それとも――。

玄関のドアが開く音がし、慌てて書類を引き出しに押し込んだ。

彼の優しさを疑っている自分を、隠すように。

「ただいま」

湊の声。

「おかえりなさい」

出迎えた私を、湊は愛おしそうに腕の中へ閉じ込める。

温かい体温、安らぐ香り。けれど同時に、怖くもなる。

三ヶ月後――この温もりが消えてしまう。

湊が、私の隣からいなくなる。

そんな未来が、現実になるかもしれない。

「紗良? 顔色が優れないが」

湊が、心配そうに私の顔を覗き込む。

「何か、あったか?」

「いえ……何でもありません」

嘘をついた。

彼の腕の中にいるのに、まるで独りぼっちで吹雪の中に立っているような、そんな心細さが消えない。

湊は怪訝そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。

「夕飯にするか」

いつも通りの会話。だけど、私の心は終始、不安でざわついていた。
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