冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

【湊side】

十五年前の夏。十三歳の俺は、父の手伝いで高嶺邸の庭仕事をしていた。

汗を流しながら雑草を抜く俺の目は、いつも遠くにいる少女を追っていた。

紗良。高嶺家の令嬢。俺より四歳年下、九歳の可愛らしい少女。

白いワンピースを着て、桜の木の下で本を読む彼女は、俺の世界で一番美しかった。

そんなある日、紗良が転んだ。

「あっ」

小さな悲鳴。膝を押さえて座り込む紗良。

「うう、痛い……」

紗良の大きな瞳が、みるみるうちに涙が溜まっていく。

「お嬢様……!」

俺は駆け出そうとして――足が止まった。

俺は庭師の息子。彼女は高嶺家の令嬢。

俺が、彼女に触れていいのか?

「お嬢様、大丈夫ですか!?」

躊躇している間に、執事が駆け寄って紗良を抱き起こした。

「お膝、擦りむいてしまいましたね。すぐに手当てしましょう」

執事に連れられて、紗良は屋敷の中へ消えていった。

「紗良お嬢様……」

届かない声。俺は、遠くから見ていることしかできなかった。

放り出した熊手を拾い上げる。手が、震えていた。

紗良は一度も、俺の方を見なかった。

当然だ。俺は、彼女の世界には存在しない人間なのだから。

見えない、触れられない存在。

だけど――俺は、彼女を想っていた。

幼いながらも、その感情が恋だとわかっていた。

その夜、布団の中で俺は誓った。

いつか、彼女に振り向いてもらえる男になる。彼女を守れる力を持つ。

そして、彼女の隣に立てるような人間になる。

その誓いが、俺を今まで突き動かしてきた。
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